望郷:森瑤子著のレビューです。
ニッカウヰスキーは竹鶴とリタの情熱からできている
ニッカウヰスキーにはこんな歴史があったのかと、深く感銘を受けた小説でした。ニッカウヰスキー創業者・竹鶴正孝とその妻・リタの生涯を描いた物語。
500ページからなる長い話の前半は、スコットランド・デボン地方で、4人きょうだいの長女として育ったリタの生い立ちが綴られる。
体の弱かった少女時代ではあったが、古き良きスコットランドの温かい家族の様子が細やかに描かれ、特に、家族の会話は一緒に食卓を囲んでいるような気にさせられる。
その後、リタは第一次世界大戦で初恋の人を失う。そして、モルトウイスキーの製造法を学びにやって来た竹鶴正孝と出会い結婚に至るのだが・・・。
前半はリタの家族ひとりひとりの様子が細やかに描かれている。リタの国際結婚は、当時の家族には受け入れがたいこと。家族を捨て、竹鶴を選んで日本に向かったリタ。
舞台はスコットランドから日本へ
後半は日本での生活が綴られている。
まだ外国人に慣れていない日本人の様子。
懸命に日本に慣れようと頑張るリタ。
竹鶴のウイスキーに対する熱意とはうらはらに、大不況の中、ウイスキー製造に挑むという厳しい現状。なかなか完成させることができないもどかしさ。この夫婦には次から次へと難問が降りかかる。
やがて舞台は北海道・余市。
竹鶴は独立し、自分の思い描く夢を実現するために、この地で「ニッカウヰスキー」を創立する。
養女を迎えるなど、リタ自身の生活にも変化が訪れるが、この夫婦に安定した穏やかな日々を迎えるのはまだまだ先のようだ。波乱万丈な夫婦の話ではあるが、この二人に共通するものは「情熱」。
竹鶴はもちろんモルトウイスキーに全身全霊で情熱を注ぐ。
リタはそんな竹鶴を献身的かつ情熱的に愛を注ぎ続ける。
どちらか一方でも欠けたらこの偉業は決して成し得なかっただろうと感じさせられた。
色々な出来事がありすぎるほどあったご夫婦。
最後に自分の中に強く残ったのが、このふたりの「情熱」でした。
日本で今、目にするウイスキーは、竹鶴たちが生きた時代と繋がっている。そう思うととても不思議な気分になる。
こんな素敵な人々が一生懸命作り上げたウイスキーが、長い長い年月を経て私たちの元へやって来たのだなぁとしみじみ思ってしまう。
あ~ウイスキーの味がわかる人になって、この話を思い返しながら深く味わってみたいものだ・・・と思いつつ、珈琲をすすっている。