うずまきぐ~るぐる

本の紹介や日々のことをぐるぐるかきます

私のなかの彼女 角田光代

嫌な感じを描くのが実に上手い角田さんの長編

 

明るい話ではない。ずっと沈んでいたものが、徐々に

浮かび上がって来るような独特なリズムがこの小説にはある。

 

主人公和歌は同じ大学に通う仙太郎と恋人同士。
仙太郎はセンスもいいし、教養もあり誰からも好かれる存在だ。
学生でありながら、才能のある仙太郎はバブルという時代の

波に乗りアーティストとしても活躍をしている。

 

一方、和歌は就職する段階に来ても自分が何をしたいのか

分からないようなふわふわした女性。仙太郎の勧めで出版社に

就職するがパッとしない生活を送る。そんな和歌はある日、

実家の蔵にあった祖母の書いたらしき本を見つけ、

やがて自分も何か書いてみようと新しい世界に

飛び込むのだが・・・。

 

前半は和歌のへらへらした感じが気になりつつも、

若いときって案外、自分もこんな一面があったかもな~と

思ったりしたのだが、なにより違和感があったのが、

仙太郎の言動だ。

 

途中までこの彼がイイ人なのか意地悪な人なのかちょっと

判別しにくい。でも彼が発する言葉には必ず人を

見下したような雰囲気が残る。正論なのだ。言っていることは。
でもさりげなく相手を否定し、ギリギリのところでサッと

何事もなかったような態度をとる。

 

そんな彼の前で和歌はいつしか彼のご機嫌をうかがうように

なったり、怯えたり。一度は同棲し、子供を生む決意までする

二人だが、時間を重ねれば重ねるほど、関係がどんどん

歪んでゆく。

 

私のなかの彼女

私のなかの彼女

 

 

人の人生に影響を与える言葉の恐ろしさ

 

人は誰かに言われた一言が意外にも長いこと心の中に

残っていたりする。
何気なくかけてもらった一言が、落ち込んだ時に

ふと思い出され、励まされたり、支えになったりする。

 

和歌もこの彼に少しでも肯定的な言葉をかけてもらっていれば、
後半何かに囚われたような感じにはならなかっただろう。

「何気ない一言」は、それだけ人の一生に大きな影響を

与えたりする恐ろしさがある。

 

本書でもそうなのだが、言った方はすっかり忘れていることも、
言われた方はずっと覚えていたりする。
特に否定的な言葉は余計そうなのではないかと。

 

ふたりの関係を中心に、祖母の歴史を追っていくという話も

並行して展開される。
また、作家としての仕事へ対する苦悩、自立等々、

細かく丁寧にその時々の彼女の心境が描写されている。

それは苦しいほどに。

 

バブルから20年あまりの話で、当時の事件などから

時代を感じさせられるシーンも多い。

 

女性が男性と対等になろうと頑張っていた時代。
どんなに対等だと叫ばれても、対等でなかった部分が

たくさんあったことを私たちは知っている。

 

20年って長いのか短いのか・・・
彼女の変化が目まぐるしかったようでもあり、
ゆっくり流れていったようにも感じる。

 

時間が流れても彼女は大学の先生に言われた言葉をまるで

宝物のように、何度か思い出していた。それは彼女を肯定する言葉。
彼女は今、その言葉が自分でも実感できるまで大人の女性に

なれたのだと思う。

 

仙太郎、和歌、どちらにも共感ができるものではなかったけど、
なんだか最終的に恋愛のことだけじゃなく、いろーんなことが
頭の中に廻り、止まらない。

 

角田さんの作品はそこはかとなく奥が深い。
あの仙太郎が発する違和感のある会話のうまさと言ったら。
どうしたらあんな嫌な感じを自然に描けるのだろう。
小説だと解っていても、かなりイライラさせられた(笑)

 

角田光代は物凄い作家なんだと、今回はいつも以上に思った

次第である。