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【レビュー・あらすじ・感想】笹の舟で海をわたる:角田光代

 

 

 笹の舟で海をわたる:角田光代著のレビューです。

笹の舟で海をわたる (新潮文庫)

笹の舟で海をわたる (新潮文庫)

 

 

感想

ある兄弟のもとに嫁いだ二人の女性の「昭和」という時代

 

ん~これも読み込めば読み込むほど深い作品であった。今まで角田さんの作品はわりと自分に近い年齢の登場人物が多かったので、歩んだ時代背景にもかなり親近感がもて
分かり易かったのですが、今回は私の知らない昭和の部分も余すことなく描かれていて、まさに「激動」な場面を何度も目にすることになる。

 

設定も面白い。ある兄弟のもとに嫁いだ女性二人は偶然にも、昔、疎開先が一緒だったという。この二人の女性が平成の現在、ともに夫に先立たれ「一緒に暮らそうか」という話からはじまる。そこからこの二人の家族の歴史、社会の歴史を遡って描かれてゆく。

 

風美子(ふみこ)は、欲しいものはなんでも手に入れる女性。
キャリアも積み上げ、姑に苛められようとシュッとしている。

 

左織は風美子に比べるといたって普通の主婦であるが、二人の子供たちとの関係も希薄で、一見平和そうに見えるけどいつもなにか問題を抱えているような女性。特に娘は母親である自分より、風美子に心を寄せていて、しょっちゅう風美子の家に泊まりに行くなど、左織とって面白くないことが多い。

 

特に何をされたというわけではないけど、この風美子という女性は左織の領域にスルッと入ってきては、心をざわつかせる人で、それがまたなんなのか、非常にわかりにくい。

 

いい人なのか、ひょっとしたらすごくしたたかな人なのか?・・・・と、またまた、このどっちなのか分からない登場人物に気持ちが定まらない状態で読み進める。

 

他の登場人物たちも個性的だ。話としていい感じに意地悪で嫌み発言タラタラな姑。なーんか紐っぽい、風美子の夫。左織の息子の本当の姿。

 

 

 

 

疎開先のシーンも大変興味深い。
おそらくなのですが、柴田 道子さんの「谷間の底から」をもとに角田さん、この作品を作ったのではないかな~と思う。

 

もし、本書を読んで、疎開の部分に興味をもたれた方は「谷間の底から」も一緒に読むことをお薦めします。古い本ですが当時の子供たちの苦しみが記された
大変貴重な話です。

 

話はそれましたが、この二人の女性は、亡くなってゆく家族を見送るお葬式ごとに、昔を振り返っている。結婚式なんて華やかなものは一度もなく、この作品には葬式のシーンが多い。それもこれも、家族が集まるのは皮肉なことにいつも葬式なのだ。

 

過去と現在を行き来しながら、やがてシニアになったふたり。この先、どこで誰と暮らしてゆくか。現実的なテーマが彼女たちにも残り、左織も新たな決断をする時が
やってくる。

 

 

 

 

ムズムズする微妙な人間関係が実に巧み!

 

友人同士が姉妹になるってどんな感じだろう?単純に楽しそうって思える半面、やっぱり家族になってしまうと見えてくるものもきっと違ってくるのだろう。それにしてもこれだけ自分の人生に関わって来る誰かがいるってすごいことだと思う。

 

それと、独身女性はもちろん、既婚女性だってこの先、夫が先立ち子供も独立というパターンで一人暮らしになるケースが増えている。その時、どういう生活をするのか、どうしたいのか。そんな大きなテーマも含めて、とにかく重量感があった1冊でした。

 

ぎゃ!なんだか、ダラダラ書いてしまった。でも、それだけこの作品って色々なことが詰まっているのです。

 

疲労を隠しきれないが、読後の充実感はものすごくあります。角田さんの小説って、体力が要るなぁ・・・と最近思っている。読むのも書くのも、結構な労力であります。

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