今日も一日きみを見てた:角田光代著のレビューです。
意外がいっぱい詰まっているエッセイ
一日中見ていたのは
猫が角田さんをずっと見ていたのか?
それとも、
角田さんが猫をずっと見ていたのか?
答えはこの本にはない。
でも本を読んでいるうちに見ているのは角田さんでもあり、猫のトトでもあり、お互いがお互いのことを知ろう知ろうとしている様子が手に取るように感じられる。
角田さんちの猫ちゃんはツイッターを通して毎晩拝見していて、障子を破って澄ましている顔や、おやつをねだっている顔などに随分と癒されている。
この本、手に取るまではてっきり写真集だと思っていたのだけれど、小さいトトが角田さんの家にやって来てから現在までの「猫飼い初体験記録」とでも言えばいいのかな~、立派な読み物でありました。まるで小説のような読み心地で、読者をスルスルと巻き込んでゆくあたりは、さすが角田さん。
猫を飼う喜び、戸惑い、発見、暮らしぶり等々、これが実に面白い。
何度、涙ぐみ、何度、笑い、何度、角田さんの奮闘ぶりにエールを送ったことか。
私はてっきり角田さんは昔から猫好きの方なのかと思っていたのですが、「自分が猫を飼うこと自体考えになかった」というじゃないですか。もし飼うとしたら「犬」って思っていたそうだ。意外すぎる!
だから猫との関係もはじめはかなりぎこちないし、留守時の心配は尽きないし、ちょっとしたことで右往左往することになる。
猫を飼うことで初めて知るあれこれ、ペットフードや、猫用語など、飼ってみないと絶対知ることのない話がたくさん詰まっていた。
また、猫っていう動物をひとくくりできないエピソードもあり、猫を飼っている人にとっても意外だと思う発見も多いのではないかと思う。
「猫ってこうでしょ?」って言われていることが、意外にも全ての猫に当てはまるわけではないのか・・・と私など「へぇー」と思うことが随分とあった。
その子との縁、不思議な繋がりを感じずにはいられない
さて、このトトはん、西原さんちの猫ちゃんから生まれた猫なのです。猫派でもなかった角田さんに何故西原さんは唐突に「ネコあげようか」などと言ったのだろうか?
しかも初対面の日に。
「猫がきた理由」を読むと、西原さんの占い師のような発言がなんとも興味深い。恐るべし、西原さん!
「トトってなんなのだろう」という疑問を角田さんは自分に問いかけている。
そこにはもう人とも動物とも区別のつかない「トト」という生きものしない。猫ってなんなのかわからないが、でも、とにかくすごいものだということは、身にしみてわかる。
ということで、いわゆる「ペットが可愛すぎて本を出しちゃいました!」という類の本ではありません。愛猫メロメロのはしゃいだ雰囲気もなく、淡々と猫との生活が描かれている。
それでも「あーあー、角田さん、トトはんに溶かされてる・・・」って様子は行間のあちこちから伝わって来るのです。
猫派とか、犬派とか言っていても、どこでどうご縁があってその子と繋がるか分らない。私も「いつかは犬!」って思っていても、気づいたら「亀」を飼っているかもしれない。そんな不思議な繋がりがあるということを角田さんとトトの出会いから知った。
最後にトトはん、ずっといたずらっ子って思っていたけど、実は静かで奥ゆかしく、人間っぽい子だったのですね。ツイッターでは分からないトトはんのこと、たくさんこの本で学んだよ。