蓼喰う虫:谷崎潤一郎著のレビューです。
仮面夫婦の6つの約束事とは・・・
──「著者の私生活を反映した問題作」 ──
うはぁー、この一文はあとから知った。ってことは、主人公の男性のモデルは谷崎だったのか!谷崎家って仮面夫婦だったのですかね~。
さて、本書は愛欲を失った一組の夫婦の話。
きれいな女性を娶った要、しかし、妻という存在になってしまうと、気持ちも萎えてしまいセックスレスへという、ありがちな話なのだが・・・。
修復不可能と感じたのか?妻は妻で外に恋人を作るのだが、これが内緒事でない、夫婦公認だというから変な話になるのだ。
すっきり別れてしまえばと思うのだが、子供のことや世間体を気にして、なかなか離婚に踏み切らない夫婦。
「僕たちは先のことよりも目前の別れが恐いんだよね」なんてこと言って、夫婦は語り合い笑う。
そこで、夫の要は妻にある6つの提案をする。それは・・・
当分世間的には自分の妻であること。
世間的には妻の恋人は友人と言うことに。
しかし、世間的に疑いを招かない範囲で、精神的にも肉体的にも自由であること。
そしてしばらく様子を見て、妻が恋人と夫婦としてうまくやっていけそうだったら、要が妻の父親に諒解を得に行く。
この計画が上手くいきそうになかったら、妻は元通り要の家にとどまる。
もし、妻と恋人が上手く行き、夫婦になったら、要は二人の友人として長く交際する。
本文を読むと「世間的」という言葉が繰り返し出てくる。
やはり、世間の目が気になるがゆえの優柔不断なのか?
この計画を聞くと妻も心が晴れたようだ。
それにしても、ちょっと凡人には理解しがたいなーと思う反面、この夫婦の現状を見ていると、なにも急いでことを進めるばかりが得策だとも思えなくなり、白黒つけることがなんだか面倒になってくるのも否めない。読み込んでゆくにしたがって、自分の中の常識という軸がどんどんズレて行くような気さえしてくる。
しかし将来的にどちらに転んでも、なにかモヤモヤしたものを残す気がしますね。夫婦の行方は?結末がどうなったのか分からないままだったので、どうしたものかと悶々とした気持ちが広がってしまう。
この話のもうひとつのカップル、要の義父は年の離れた愛人と暮らしている。
人形浄瑠璃の鑑賞でたびたび要も同行しているのだが、義父と愛人の仲睦ましい関係を近くで見ていて羨ましく思っているよう。
「たった一人の女性を守って行きたい」という夢もある。...のわりに、外国人娼婦の元へ足しげく通う。要は女性との関係になにを求めているのか?そのあたりが全体的にあやふやで、常に揺れている。やっぱりつまるところはあれか・・・
「痴人の愛」のような生活が理想とか?
谷崎の私生活にますます興味が・・・
これが谷崎の私生活を反映したものであるのなら、答えはそこにありそうだ。谷崎の評伝を読まなければならない気がしてきて、かなり焦りを感じている(笑)
ってことで、私生活を小説にした本を見つけたので、ちょっと谷崎家へ訪問して参ります。(←アンタモスキネェ)結婚は一度ではないようなので、どこでどうこの話と繋がってゆくのか俄然、楽しみになってきました!