水のかたち:宮本輝著のレビューです。
感想・あらすじ 骨董品からふしぎと繋がる人間関係を描く
★上下巻まとめてのレビューです。
歳とともに思いきったことをするのはなかなか勇気がいる。
また、人間関係も新たに築くのは結構億劫になって来た。
でも本書を読んでいて思い出した。世界がどんどん広がっていく時って、いい意味で
あんまり慎重にならず、構えず素直にまずは乗ってみる的な行動をとっていたように思える。
その先には自分が想像していなかったことに遭遇したり、また自分の新たな一面を発見できたりと、振り返るとまさに毎日が変動していたように思える。
今となっては体力の低下もあって、そんな冒険やしんどいことに自ら首を突っ込まないけど、本書の主人公女性を見ていて、日々是変動という生活を久々に感じました。
能勢志乃子は東京の下町、門前仲町に暮らす50歳を迎えた主婦。閉店するという近所の古い喫茶店の女主人から、年代物の文机、茶碗、手文庫を譲り受けます。
これらの品々を手にしたことによって、まるで新しい扉が開いたかのように彼女の人生が急激に動き始めます。
骨董品からふしぎと繋がる人間関係。その人間関係を軸にはじまる志乃子の第二の人生。様々な流れが羨ましいほど恵まれていて、そんなに上手くいくものなのか?と、やっかみ半分思わないでもないけれど、冒頭言ったように、流れに乗っている時ってこんな風にめくるめく展開もありなのかもって思える。
志乃子という女性のバイタリティーと決断力。人を引寄せる魅力。家族の理解を得てそれらがどんどん活かされてゆく。
後半は志乃子の生活の変化とともに、貰い受けた手文庫に残された小さな手縫いのリュックサックと、1946年に三十八度線を越えて帰国した家族の手記を元にした話など、内容が盛りだくさん。
50代からの出発
私的にはちょっと盛り込みすぎじゃないかと感じたのだけど、読みごたえはあります。骨董の話、もっと欲しかったなぁ・・・。
本書で一番良かったのは、志乃子のご主人!志乃子の赤ちゃんのころの写真をお財布に
入れているというご主人。今の姿じゃなく、赤ちゃん時代の妻の写真!?なんでかって?......すてきな話だった。ご主人からこんな話を聞いたら、妻はすごーく幸せだと思うなぁ~。
まだまだ50歳は先の先と思っている人も、50代に近い世代の人も、この時期をどう生きるか、考えさせられる1冊になると思う。選択肢はまだまだたくさんありそう....なんて夢も持てるかも!?