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うずまきぐ~るぐる 

*** 新しい本との出合いがきっとある★書評ブログ ****

【レビュー】男役:中山可穂

 

 

 男役:中山可穂著のレビューです。

 

男役 (角川文庫)

男役 (角川文庫)

  • 作者:中山 可穂
  • 発売日: 2018/03/24
  • メディア: 文庫
 

 

宝塚の小説を読んでみる

 

うむ、私に宝塚を題材にした小説、理解出来るのだろうか?
と最初は思っていたのですが、これがまた、思った以上にスルッと中に入り込めたという。

 

昔は大物歌手は「引退」と言う形で芸能界を去ったもので、最後のコンサートなんかもしっかりやってファンとお別れした。そんな風景も滅多に見られなくなったけど、どうもこの宝塚にはそういったある意味懐かしい風習が残っているようで、去ってゆく大物スターの存在感の凄さが実感できる。

 

本書はサヨナラ公演を控えた月組トップスター如月すみれと、新人公演で大抜擢されたひかるにスポットをあてて話が展開される。

 

風変わりな登場人物は50年前の伝説の男役スター・扇乙矢。
舞台で事故死した伝説のスターは、ファントムさんと呼ばれまるで宝塚の舞台を見守っているかのように、現役スターたちの良きアドバザーとして現れては消えるのだ。そう、幽霊なんです。

 

ファントムさんのかつての相手役はひかるの祖母であった。
悲惨な事故から引退してし、宝塚のすべてをシャットアウトした祖母。

死んでもなお祖母のことを心配し心から強く想っているファントムさん。
それゆえに彼女の孫である不慣れなひかるのことをいつも気にかけている。

 

ということで、宝塚って全員女性なわけですが、やはりというか、中に入り込んでしまうとその性別の境目があやふやになるというか、役なのかそれともリアルな彼ら自身なのか、その人物像すらもあやふやになってゆくマジック的なものがあった。

 

よく考えたら女と女が演じているんですけどねぇ。
そんなことが薄らいでしまうから不思議。
この感覚が宝塚ってものなのでしょうか?

 

ファントムさんとひかるの祖母が再会したシーンなんかもう恋愛のラストシーンを観ているようでもあり、とても幻想的でもあり・・・。

 

噂では聞いていたけど、なかなか深い世界なんですねぇ。
役柄に惚れるのか?それともご本人の人生そのものに惚れるのか?
ファン心理というものを探ってみたくなったのも事実。

そうそう、中山さんのあとがきも読みごたえがあります。

 

なんでも宝塚は、

容易に内部への立ち入った取材が許されないところであり、卒業生は決して外部の人間に裏話を語ることはなく、
まるですみれ色のバリアに覆われているかのように謎めいている。

だからこの作品自体、あくまで作者のイマジネーション

および妄想の産物であり、実態とはかけ離れているかもしれない。

      

出版することで、ファンから怒りを買われないか?等々、発表は少しばかり勇気がいることだったと、中山さんは語っていた。

 

男性以上に男前、それが男役なのかもしれない

 

なるほどなぁ~。なかなか中の様子が知られてないのも、こういう世界だったのですね。

 

伝統があるものだから、決まり事や伝説など、まだまだ計り知れないほど色々あるのだろうけど、宝塚が好きになってしまうことがどういうことなのか、言葉にできない感情の動きがちょっと理解出来た気がする。そんな世界を覗かせてくれただけでも読んだ甲斐があった。

 

さて、無事引退公演を終えたすみれの去り方も潔くって格好良い。
男性以上に男前、それが男役なのかもしれないですねー。

 

ヅカファンにとって、「男役」以上の理想の男性は、この世の中にはきっといないであろう・・・と勝手に想像しています。