人が見たら蛙に化れ:村田喜代子著のレビューです。
骨董の世界を存分に堪能できる小説
「屋根屋」が面白かったので、村田さんの長編を
もっと読んでみたくなり2冊目に選んでみたのがこの作品です。
骨董にまつわる小説ということで、読み始めたらこれがもう面白くて600ページ近い大作にもかかわらず、あっという間に読了。
かなりマニアック寄りな内容だと思いますが、好きな人には頬が緩んじゃうような面白さがあり、ずっと退屈せず読み進められます。
骨董品と言っても色々で、陶器から人形、西洋骨董、陶片に至るまで、取り上げられているジャンルの広さにも圧倒されます。
骨董商を営む馬爪建吾と離婚をした元妻の富子。
盗掘師(古窯跡を盗掘して焼き物を掘り出す人)の萬田と安美。
ハタ師(全国の旧家等を回り骨董品を仕入れ売りさばく人)の飛田と季子。
この男女3組の話が同時進行してゆくという形で話が展開されます。
掘ったり、訪れて仕入れたりと、物に魅せられた人々の執着はものすごいものがある。
そこまでするか?ってくらい強い情熱が次々と溢れ出る。
仕入れる者、購入するコレクター、ここにもたくさんの物語が生まれる。
特に本書に登場する「元禄人形」に魅せられてしまった男の姿は狂気に満ちている。人形さえあれば妻もいらないという。
後半は馬爪建吾と離婚をした元妻の富子たちのロンドン、リヨン、フィレンツェへの海外買付けの話が中心となる。これも楽しかったな~。外国人相手の駆け引きだけではなく、ここでは馬爪と富子の微妙な人間模様に一波乱が起き、それがまた小説にうま味を加えている。
ラストはなんだかえらいことになってしまった感が残るのだけれども、結末云々より、骨董にまつわる様々な出来事がかなり面白かったので、小説としての流れがどうのこうのといった不満は特に感じなかった。
マニアック寄りではあるけれど、好きな人には興奮の作
ある人にとっては不要なガラクタが大金に化けたり、大金はたいて買ったものが、なんの価値も無くなったり。
骨董品は人を豊かにしたり、狂わせたりしながら、人から人へと時間を超えて旅をしているのだ。
とにかく、書評にするには面白い話が多すぎてとても書き切れない。
少しでも骨董好きって方には是非おすすめしたいです。入門書とか読むより、この業界全体のことが大まかに見えてきて大変参考になると思います。また、業界用語や専門用語など、普段聞けないような言葉もたくさんあり、かなり参考になりました。
万人受けするとは思えない内容だけれども、個人的には寝る間も惜しんで読んでしまった興奮の作でした。