トットひとり: 黒柳徹子著のレビューです。
楽しかった思い出を、ひとりで引き連れて歩く
タイトルの意味が、本を読みこむほど沁み入って来る。
長く生きるということが、こんなにも切ない気持で楽しかった思い出を引き連れて歩くことなのかと、ずっと感じながら読んでいた。
本書は徹子さんとお付き合いのあった往年のスターたちがたくさん登場する。各章、亡くなった方たちひょっこり現世に遊びに来たかのように現れる。
画面からは想像できない素顔が描かれ、どれもこれも貴重なエピソードばかり。
そして、昭和という時代がやけに輝いて見える。
そんな思い出話に、時に笑い、時に涙ぐみながら話す徹子さんの姿が目に浮かぶ。
しかし、その思い出話を共有できる相手がすでにいないという現実。
このなんとも言えない切ない雰囲気は結構堪えるものがある。
自分を理解してくれていた人、自分と同じ匂いを持った人。そんな自分の好きな人々が、年を追うごとに旅立ってしまい、楽しかったあの日々を一緒に話したくたってもう話せない。
どんなに近くにいても、いつかは別れが来る。
それがある日突然消えてしまうような別れであったり、静かに少しずつ見守りながらの別れであったり。語り尽くされたエピソードもあるけれど、向田邦子さんの話は何度聞いても私を楽しませてくれる。徹子さんと向田さんの二人が作り出す空間が何よりもよい。そして、向田さんがあっという間に居なくなってしまった淋しさが深々と胸に迫る。
沢村貞子さんについて私はあまり知らなかったのですが、こちらは向田さんの死と違い、静かにその時を迎える様子が印象的であった。
また昭和の歌番組と言えばザ・ベストテン。
番組制作に情熱を注ぐ人々の姿とともに、楽しいエピソードや苦労など、ベストテン世代なら愉しめる内容だと思います。
そして徹子さんと言えば、やはりパンダ!まさかね・・・と思っていたら、徹子さんったら、パンダのひみつを書いていました(笑)
というわけで、笑ったり、しんみりしたり、興味をそそられたり。
自分の好きな人々がこの世をどんどん去ってゆく。私なんかはまだそれがどんなに深い淋しさであるのか想像しただけでも、胸が苦しくなののだが、その年代にならないと解らない複雑な心境をリアルに徹子さんは伝えてくれている。
楽しかった思い出を、ひとりで引き連れて歩くことは、なんて切なくて哀しいことなのか・・・。
「トットひとり」、タイトルからも淋しさがにじみ出ている。