雨恋:松尾由美著のレビューです。
感想・あらすじ 雨の日に読むのにふさわしい透明感ある小説
もし、好きになった人と雨の日にしか会えなかったら?
まぁ、そんなことはまずないと思いますが、雨とか雪とか好きな自分はこんなロマンチックな設定も悪くないなぁーと思っていたが…。
タイトルからして恋愛ものかな?と思ったのですが、振り返ってみると結果的にはそうなのかもしれないけど、全体的にはミステリー、考えかたによってはちょっとホラーという、一つの物語に何層もの要素が含まれています。
叔母がアメリカへ仕事で赴任することになり、その留守宅のマンションと飼い猫2匹の世話を任される渉。しかし、そのマンションの部屋は3年前に自殺した女性がいた。
やがてこの女性が雨の日に部屋に現れるようになり(気配はあっても声のみ)、渉と会話をする。
自分の最期に納得がいかない彼女は真相を解き明かしたいと願い、渉はそれに協力することへ…。
と、ざっくりの流れを書いたが、この真相が次々と解って行く過程が面白く、また、この彼女も「納得する」ことにより、少しずつ下半身の方から姿が見えて来るという変化があるので、渉と一緒に徐々に彼女がどんな容姿なのか?と読者も知りたくなってくるのです。
そして、渉は彼女に惹かれていくのだが、なにせ好きになっても相手は死んだ人。
真実がすべて分れば彼女の姿もすべて見えるようになる。しかし、行く末はハッピーエンドなんて望めないと渉も読者も薄々う気付きながら、何か奇跡でも起こるのかな?なんて気持ちでスイスイ読んでしまった。
んー、ラストはですねぇ…
私的には静かにあっさり終わった…かな。
いろんな角度からほどほどに愉しめる
ミステリーとして見た場合、それほどガシガシ追及していく感じでもなく、ホラーとして見た場合も、若干の不気味さはあるものの、慣れてしまえば全く怖くない。
そして、恋愛って方面から見ても、それほど強い情熱や濃さはない。全体的に「ほどほど」って程度で収まっている。
ただ印象的なのは、全体的にしっとりした雨の日の雰囲気が漂っている作品で、透明感があり静かで落ち着いている。これはまさに「雨の日小説」として読むのにふさわしい。雨音を聞きながらこんな小説はいかがでしょうか。
「雨恋」は「雨乞い」でもある。
なるほど。と最後にハッと気づきました。