刺青・秘密:谷崎潤一郎著のレビューです。
ちびっこたちの芝居ごっこは、とんでもないことに!
谷崎の色々な「味」が愉しめる、所謂バラエティパック的な1冊。
短編が7つです。
谷崎文学に関しては、1作品1冊と言うかたちでじっくり読んで
余韻を味わいたいと思っているので、ごちゃごちゃと色々な作品が
入って来ると、ちょっと落ち着かなかったりする。
ほら、高級チョコは一粒でもあの濃厚な味に満足するじゃないですか。大事に食べようと思うじゃないですか。
谷崎文学もそれと似ていて濃度が高い作品なものだから、
一冊一冊小分けにして、解説などもたっぷり読みたいという
我が儘な願望が・・・(笑)
それはそうと・・・。
記憶に残ったのは、なんといっても「少年」。
今回の登場人物はちびっこたち。
お金持ちの気弱な少年・信一。信一の腹違いの姉の光子。
(光子と言う名の女性は谷崎文学では要注意?)
そして、この家にお呼ばれした私とガキ大将の仙吉。
この4人で日々、芝居のような遊びに没頭する。
ここで面白いのは、学校で気弱な少年信一が、この家に居る時は、
ガキ大将の仙吉を家来のように扱っているという逆転現象。
会社のお偉いさんほど、マゾっけのある人が多いと
言われているが、そんなものを彷彿させる少年たち。
このあたりまでは、まだ面白おかしく読んでいたわけだが・・・。
遊びの中で互いにいたぶったり、いたぶられたりして行くうちに、
徐々にエスカレートしてゆき、恐怖と快楽が表裏一体の世界へ。
やがて男子どもは光子に操られるようになる。
その光子の吸引力たるや、ものすごいものがある。
光子に縛られたり、蝋を垂らされたりしながら仙吉は私に言う。
「おい、お前も己も不断あんまりお嬢様をいじめたものだから、今夜は仇を取られるんだよ。己はもうすっかりお嬢様に降参して了ったんだよ。お前も早くあやまって
了わないと、非道い目に会わされる。……」
仙吉も私も光子に跪く。
「腰かけにおなり」と言われれば、直ちに四つん這いになり
背中を向ける。爪を切らされる。鼻の掃除をさせられる。
Urineを飲まされる。ついにここまで来たか・・・。
これ、大人たちの話ではなく、タイトル通り少年たちの
話なんですよね。
最終的に女王様の奴隷になっちゃうあたりは、
谷崎文学のお約束とでも言える。
おっちゃん、ブレないねぇ。
谷崎文学の好みの分かれ目
これまで読んで来た中でグロテスク度がかなり高い内容だった「少年」。
だから、谷崎は苦手だ。
いや、だから谷崎は面白い。
好みの「分かれ目」ともなりそうな作品なのではないかと思う。
なぜこのような題材を大人じゃなく子供たちの世界に
入れ込んだのか?
谷崎自身のことを分析したくなってしまうのも、
きっと私だけじなく、多くの読者が興味を持つところだろう。
ということで、「少年」だけで気づけば1000文字越え(笑)
だから、1冊1作品にして欲しいのですって。
他の6編は、また違った雰囲気を持つ作品ばかりです。
女装癖のある男性の話なんかもあるし、
谷崎の自叙伝的小説「異端児の悲しみ」も秀逸である。
本当はあれこれ書いてみたいところだが、燃料切れです。
バラエティパックなので、お好みの作品がみつけられるという
意味ではお得な一冊だけれども、やっぱり1作品1冊で・・・
(しつこい)