おいしいものと恋のはなし 田辺聖子著のレビューです。
憎まれ口を言い合っても、美味しいもの食べてチャラになる
新作なのかと思ったら、昔の恋愛小説の短編を集めたものでした。
道理で言い回しや職場の様子がちょっと古いな~なんて思ったけれど、それはそれで時代を顧みる感じで楽しかったです。
9つの話は、どれもラストは「ニッ」とした表情になるような温かいものばかり。
気になるあの人に憎まれ口をついつい言ってしまったり、好きなのに意地を張ってしまったり、素直になれなかったり。近くにいるのにその良さに気付けないとか・・・ね。
田辺さんの小説はどんなにドタバタ事件が起きても、なんだか安心感がある。
それは体温を感じさせられる深い人間愛が根底に流れているからなんだと思います。加えてちょっとしたお茶目な演出があったりと、読んで不快になるものが見当たらないのです。
「婚約」という話はラストに来るまでドタバタ!
陽子はそそっかしい年頃の娘。彼女はお見合いをするのだが、見合い相手はどうも卒なく接客する妹のマチ子に目移りをしたようだ・・・。
陽子は妹と違い、なかなか場の空気が読めないタイプの女性。
家族はお見合いの行方を気にしながら時は過ぎる。
陽子の不憫さに読者もヤキモキするのだが、この話のラストが可笑しくて、可笑しくて。キーポイントは、話の冒頭1行目です!なーるほど・・・っと、思わずここでも「ニッ」としてしまうのです。
そして田辺さんのお家芸、関西弁でのテンポ良い男女の会話。「百合と腹巻」の男女間の会話は漫才そのもの。大人の男女ではあるけれど、まるで小学生みたいに言い合い、やがて離れ、そしてまたくっついて!「そうそう、なんだかんだやっぱりお似合いだわ~って」と、ここでもまた「ニッ」として。
殺伐とした人間関係を描いた小説が多いなか、田辺さんの小説は、みかんを食べながらおこたにはいって安心して読める心地よさがある。
どんなに憎まれ口を言い合っても、美味しいもの食べて美味しいお酒をクイッと呑んでチャラになる。そんな単純で美味しい結末がいつもそこにある。