点子ちゃんとアントン:エーリヒケストナー著のレビューです。
鳴り響く点子ちゃん注意警報!
数年に一度、児童書から強烈な印象を残す子どもに出会うのですが、
点子ちゃんは間違いなくその一人になりました。
もうのっけからって感じで、「この子、ぜーったい何かしでかす!」と「点子ちゃん、注意警報」が、わたしの中で鳴り響きます。
「マッチは、マッチはいかがです?そこのだんなさま、奥さま!」
「わたしども貧しい者を、あわれとおぼしめせ。
ひと箱たったの十ペニヒ」
飼い犬ビーフケが不思議そうな顔で見守る中、
すすり泣きながらしきりにひざをかがめて、
おじぎをする少女、点子ちゃん。
寒空の下、健気に少女が頑張っている・・・涙を誘う光景です。
・・・って、思いたいところだが、、点子ちゃーーん!
なんと、リビングの壁に向かってやってるんです。
点子ちゃんの芝居はどんどん勢いが増し演技に力が入ります。
もうここを読んだだけで、はやくも私は点子ちゃんのファンへ。
さぁ、この先、何が起こるのだろうと、わくわくした気持ちで
物語がはじまるのです。
貧しく病気の母の世話をする真面目で心優しいアントン少年。
お金持ちの両親はいつも忙しくて、ちょっと寂しい点子ちゃん。
家庭の状況は真逆の二人ですが、点子ちゃんとアントンは
とても仲良し。
この物語の大きな軸になっているのがこのアントンと
点子ちゃんとの友情。
点子ちゃんが悪ガキにいじめられれば、アントンが助ける。
アントンが学校でピンチになれば、点子ちゃんが直接
アントンの先生に会いにゆき事情を説明する。
しかも、アントンに気づかれぬよう密かに
彼のピンチを救いに行くという男前さを披露!
友達を守ろうと、一直線に向かってゆく点子ちゃん。
お茶目でユーモラスなだけではなく、友達のためにひと肌脱ぐ
その行動力と勇気にとても惹かれるものがありました。
この二人の関係の心地良さと言ったらない。
さてさてなにやら点子ちゃんに動きが!
彼女は両親の居ない夜、家を抜け出し、街角でマッチ売りを
しているようです。
冒頭の芝居はこのためにだったのか~。
なぜお金持ちの家の子がマッチ売り?
お父さんとお母さんにばれたらどうするの?
物語の他にケストナーからの問い掛けが深い
本書にはもうひとつ読みどころがあります。
各章の終りに「立ち止まって考えること」というコーナーが設けられていて、ケストナーからのちょっとした語りかけのような
ものがあります。
「義務」「空想」「貧乏」「生きることのきびしさ」「友情」「うそ」等々・・・。
これらのテーマをもとに、短くはありますが、ケストナーの
なかなか深い考察に出合えます。
さぁ、終盤。点子ちゃん、街角でマッチ売りをしていることが、
やっぱり両親にバレちゃうんですねぇ。
一体どうなることやら・・・・。
ラストはこれまた意外な展開に!
点子ちゃん、アントンだけでなく、点子ちゃんの養育係の
アンダハトさんや、太っちょのベルタさん、飼い犬の
ピーフケなどの脇役たちも個性豊かで、物語にたくさんの
色を重ねてくれています。点子ちゃんのお父さんも素敵!
西加奈子さんの「円卓」の主人公・こっこちゃん以来かな~。
こんなに興奮して釘付けになった少女は!
楽しいだけじゃなく、いろんな角度から物事を捉える大切さを
教えてくれた物語。何度も読みたくなる作品である。