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駅前旅館:井伏鱒二

 駅前旅館:井伏鱒二著のレビューです。

駅前旅館 (新潮文庫)

駅前旅館 (新潮文庫)

 

具だくさん! 昭和初期の宿屋業界がたっぷり味わえます

 

昭和の香りを嗅ぎたくなったら読む作家の一人に
なりつつある井伏鱒二。「駅前旅館」もそんなニーズに
きっちり応えてくれる作品であった。

小さいころから旅館の女中部屋で育った主人公。
やがて彼は東京・上野駅前の団体旅館の番頭として
日々あわただし暮している。
小説はこの番頭を中心に昭和初期の宿屋業界の裏表が
番頭の語り口調でユーモラスに描かれている。

いや~なんというか「具だくさん」の内容です。
特に泊まり客の観察を長年している番頭の考察が面白い。

地方別の客のタイプや行動パターンはこんな感じだ。

履物が新しければ、これは山形だな、秋田だなとわかるんだ。
風呂敷包みを背負っているのは新潟県。バスケットはたいていが山形県
千葉あたりの人は袋にして背負っている。
田舎の人を見て、これは善光寺参りの途次、これは伊勢参り
見分けがついたものでした。

お客の履物を見て、次に持っている携帯品を見ながら、
どこから来たのか推測する。
毎日毎日いろいろな客と接しているうちに身につける
職業的勘というものから見えるお国柄。
当時のさまざまな旅人のスタイルが浮かび上がる。

そのほか、仲間内で使う符牒や客引きのノウハウ。
団体客の扱い方や、修学旅行生が起こすちょっとした事件などなど、
業界ならではの面白い話に耳を傾ける。

場面展開も激しく、個人的にはドリフの時に見た、
音楽と一緒に回るあの舞台を思い出した(笑)

 

もてなす側も時に旅人になる

 

また、他の宿屋の番頭たちとの結びつきも強い。
客をもてなす立場であると同時に、彼らもまた旅をする。

大人たちではあるけれど、やんちゃ坊主たちの
集まりのようでもあり、これがまたひと癖もふた癖もある人びとが
繰り広げる旅は、予想通りヒヤヒヤする場面もちらほら。

どんな場面でも人間模様が細かく細かく描かれている。

読んでいるときより、こうしてレビューを書いて振り返っている
時間のほうが、よりこの小説の味わい深さが実感出来る。

あの場面も、この場面も、慌しさに紛れてしまっていたけれど、
ひとつひとつの場面を拾い集めると、なんだか妙に懐かしく
心に蘇ってくる。

 

 

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