緑と赤:深沢潮著のレビューです。
感想・あらすじ パスポート、それは在日であることを知るきっかけに
今まであまり知り得なかった在日の人々の生活や気持ちを綴った「ハンサラン愛する人々」は、昨年読んだ本の中でもかなり印象的な1冊であった。
この本をきっかけに深沢さんの作品を漏れなく読んで行こうと決めたばかりのところ早速うれしい新作です。
内容情報も見ずに読むことにしたので「緑と赤」ってタイトルからどんな話なのかまったく想像もできなかったのですが、今回もなんとなんと在日韓国人の話です。
「サンハラン~」とはまた違った切り口で、うんうん、やはり面白いし色々立ち止まって考えさせられることが多く、読み始めたら止まらなかったです。
色々な立場からものを見ること、考えることが大切であるということがこの小説を読むと肌で感じられるのです。
その立場じゃなきゃ判らないことは果てしなく多く、うまく伝えたくてもどうしても伝わらないこと、そして「どうして?」という理不尽なことが世の中になんて多いのだろうと実感させられるのです。
大学三年生の金田知英は、海外旅行をきっかけに、自分が在日韓国人であることを知ることになる。知らなければそのまま日本人としてなにも考えずに生きられた。しかし、パスポートの色の違いは否応なしに自分の国籍を意識させられるものになってしまった。
ある日突然、自分が何者なのであろうかと戸惑う・・・。知英の話に留まらない。K-POP好きな友人、梓。新大久保のカフェで働く韓国人留学生のジュンミン。ヘイトスピーチを知ったことにより、怒りを覚え、抗議活動に目覚める中年女性の良美。日本に帰化し、韓国へ留学した龍平。これらの人々を通して、日本と韓国を見つめる。
立場によって全く違って見える風景
韓国、日本を考えるときに、どの立場から見るかによって全く違う風景に映る。視点が変わると、各々が抱えている苦悩や葛藤が見えてくる。
そしてそれはいまだ解決できぬ両国の歴史から始まっているというところに辿り着き、
やるせなさがどこまでも続く。
難しいテーマですが、こうして読んで行くことによって少しでも相手の状況を理解することがとても大事なことだと気づきます。この話は小説であれ、そんな手助けをしてくれている内容だと思います。
どうして伝わらないのだろう。こんなに近くにいるのに。
国と国、じゃなく、人と人。果てしなく大きな課題ではあるけれども、固くなった紐を解くのは、やっぱり人と人の関係性からなんだろうな・・・と。
どんなに道のりは長くても一歩一歩なんだと。いつかパスポートの色が違うことなんて意識しないで行き来できる時代が来ることを祈るばかりである。
文庫本