ジヴェルニーの食卓:原田マハ著のレビューです。
「楽園のカンヴァス」につづくアートがテーマの2作目も文句なし!
「楽園のカンヴァス」に魅了された読者は、必ずこの本を手にするに違いない。 …と思うのです。なので、書評を書くのは最小限に留めておかないと…。
「楽園のカンヴァス」が長編だったのに対し、こちらは短編が4つ。
ん~どの話も、本当に読み応えがあります。
なんでしょう、読み始め3分後にはしっかりその世界にはまっているという。
私は一気読みはもったいないし、余韻も楽しもうと思い、1日1編ずつじっくり読もうと決意したのですが、結局、2編ずつ2日で読み切ってしまいました。
マティス、ドガ、セザンヌ、モネ、今回もアートをテーマにした作品です。
各々の生涯を、身近に居た人物である、女中や友人、画材屋の娘、義理の娘の目を通して静かに語られるストーリー。すべての画家とそれを取り巻く人々に共通する絵に対する想いは「愛と情熱」に満ちています。
4人の画家は現在あまりに有名で、誰もが必ずどこかで作品に触れていると思うのですが、私はドガの「エトワール」に特に親しみがあるかな。昔、家の玄関に飾ってあったので、毎朝必ず目にしていました。
当時はトウシューズにチュチュをまとった綺麗なおねえさんに憧れを抱いたものですが、ドガの彫刻のモデルになった貧しい踊り子「エトワール」の哀しい話に触れたら、
なにか私の中にも「影」がさし込み、これまでと一味違った新たな「エトワール」が胸に刻み込まれました。
物語は作品に対するドガの執念。
それを見つめる女の複雑な心境。
フィクションであると分かっていても、かなり気持ちを持って行かれました。とにかくマハさん凄いや。
専門分野ということもあるでしょうけど、あの時代にマハさんが潜入して見ていたのではないのかと思わず錯覚してしまうほど描写が繊細で鮮明で…。
本の中であの巨匠たちは今も生きている。呼吸をしている。
そんな空気に満ちているんです。
しばらく、この世界に漂っていたい。至福の時間、贅沢な時間。
こんな気分にさせられるマハさんの作品は、煩雑した時間や片手間では決して読めないとあらためて思うのであります。大事に丁寧に読みたいと。
4つの話、すべてお薦めです。
だから、どれか良かったか一つに絞れなかったりするのです。
あの話も、この話も…考えれば考えるほど選ぶのが難しい。