お菓子手帖 :長野まゆみ著のレビューです。
お菓子で振り返る自分史
とにかく、出て来る、出て来る。ありとあらゆる懐かしいお菓子とその頃の懐かしい出来事が。人の記憶力ってこんなにも頼もしいものだったのか?と思うほど長野さんの記憶力にまず驚かされます。もう頭の記憶装置をキュルキュルと何度も巻き戻された感じです。
思い出して幸せを感じたのは…
森永のハイクラウンチョコレート。煙草の箱のように、上がパカッと開くタイプの
ちょっと大人風なパッケージ。この箱を開ける時はいつも新鮮で、ちょっと厳かなムードに酔いしれていた自分がいました。なんだろうね…あの特別なチョコレートって意識は。
そして、封入されていたミニチュアカード。
覚えている方も多いと思います。イギリスのシシリー・メアリー・バーカー(※下記参照)の描く妖精のカード。このカード、私も集めてましたけど、ああいうものはどのタイミングで自分の手元から消えて行ったのだろうか…。
良い思い出ばかりでなく、不良品のクレームということで、返品したことが書かれている。
その会社はなんの対応もされなかったという今ではちょっと考えられない感じだが、そのことで大人社会の本音と建前を実感する…なんて話はとてもリアルです。
その後、長野さんは、この会社のお菓子を一切口にしないそうだ。三つ子の魂百までじゃないけど、子供時代のこうした不服は大人になっても根に持ち、覚えていることが結構あると思うのです。
子供とは言え立派なお客様。逆に子供時代にいい印象を持つと大人になってもいい印象はなかなか崩れないですものね。
ちなみに私が初クレームを出したのは小学生の時で出版社。
きっちり対応してくださったので、その後もその出版社の本はちゃんと買っています。
本書はお菓子の年譜と自分の歩みを絡めるあたりが面白いです。1959年から1988年までの様子が楽しめます。話が方々に広がっていくので、結構集中力が要りましたが…。
もし自伝を何かの歩みと絡めて書かなければならない…なんて宿題が出たら、その頃の、テレビ番組?漫画?ファッション?おもちゃ?流行語?なんて、色々考えてみたけど、「お菓子」が一番楽しそうだとやはり思うのでした。