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【レビュー・あらすじ・感想】あの道この道:吉屋信子

 

 

 あの道この道:吉屋信子著のレビューです。

 

感想・あらすじ  富豪の娘が漁師の娘とすり替えられた! 

 

こうあって欲しいという登場人物達の個々の性格が、面白いくらい反映されているような気がして、読んでいて「そうそう、いいね、いいね」と前のめりでした。

 

素直な少女を応援する一方、憎らしい少女の意地悪ぶりに「ひひひっ」と、その様子をどこかで愉しんでいる自分も居たりして、個々の感情に憑依しながら読み進めておりました。

 

大丸家というお金持ちの別荘で、女児が誕生するところから話が始まります。しかし、この子を生んですぐに母親は衰弱して急逝し、赤子はこの村で同じ日に生まれたという漁師の家にしばらくの間預けられます。

 

預けられた家の不注意によりこの子は火傷を負ってしまい、慌てたその家の父親はマズイと思い、無傷の自分の娘と取り替えて、金持ちの家へ戻したのです。

 

 

 

 

わかりやすい展開に思わずニンマリ

ふっふ、もうこの設定自体が昔っぽいし、これからこの2人の娘の生活も薄っすら想像がつきます。そしてその期待は…裏切りませんよ、吉屋信子さんは!

 

2人は成長し、やがて対面します。我儘放題に育ち高慢な千鶴子。母や弟を支え、素直で心優しく可憐なしのぶ。千鶴子の傲慢な態度や嫉妬からくる嫌がらせを受けても、素直なしのぶは優等生的な対応を繰り返します。

 

この対照的な二人の様子がまさに昔あったドラマのようで!ピアノを弾かせないように、ピアノに鍵かけちゃうなんて細々した意地悪さが絶妙です。やはり、悪役は徹していただくほど盛り上がりますね。

 

さて、こんな二人は最終的に自分の出生の謎が明かされるのでしょうか?

 

本書はこの二人を中心に、弟、母親、継母、富豪の父など各人の役どころが明確に表現され、みな人を思いやる心がある良い人々ばかりです。そして、亡き父の意志を継ごうと懸命に温泉を堀りあてようとする新太郎という青年と、村の和尚さんが登場し、ある意味この2つの家族の架け橋的存在として活躍してくれます。

 

全体を通して話はとっても単純です。しかし、やはりこの思ったように展開するストーリーと個々のキャラを愉しめる点から目が離せない内容でした。昔風な美しい日本語を使った会話は今にない優雅さが漂い素敵です。

 

裏読みばかりを強いられる本とか、なんかすっきりしない本での読み疲れが多い方。そんな時にこの「明朗会計的小説」を、おすすめいたします。

 

ドラマ化

ちなみにこの話は「乳姉妹」(ちきょうだい)というドラマがあったそうです。
TBS系列で1985年に放送。伊藤かずえさんが意地悪役だったんですね。

 

吉屋信子について

小説家。栃木高等女学校在学中から少女雑誌に短歌などを投稿。卒業後に上京し、大正6(1917)年から『少女画報』での連作『花物語』(1924)が注目され、少女小説や童話の作家として認められる。8(1919)年には『地の果まで』が『大阪朝日新聞』の懸賞小説に当選、次いで『良人の貞操』(1936-37)等が女性大衆に受け、大衆作家の第一人者となった。戦後には『鬼火』(1952)、『ときの声』(1965)等の作品を書き、晩年には歴史小説の大作『徳川の夫人たち』(1966)を完成させた。(近代日本人の肖像より)

 

あの道この道

あの道この道

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