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邂逅の森:熊谷達也

 邂逅の森:熊谷達也著のレビューです。

邂逅の森 (文春文庫)

邂逅の森 (文春文庫)

 

 

◆山に始まり、山で終わる。読み応えありの長編骨太作品!

 

 

マタギの話を読みたくて借りた本でしたが、
いやーなんというか、マタギ以外の世界をも見せてもらった

感じで、非常に充実した読書になりました。

そもそも、こういう暗雲立ち込めた一人の男の人生を追った

長編小説に圧倒されることが結構すきだったと言うことを

あらためて実感。
そんな私の好奇心を満たしてくれた「邂逅の森」。

 

秋田県阿仁の貧しい小作農に生まれた富治を追う小説は、
マタギの話に留まらず、複雑に絡み合う人間模様を

交えながら長い長い旅に出ているかのように話は

綴られる。

 

マタギであった富治は、地主の娘と熱烈な恋に落ち、
逢瀬を繰り返すが、やがて娘の父親にバレてしまい、
村を追われてしまう。

 

マタギをやむなく辞めさせられ、炭鉱で働くも、ひょんなことが

きっかけで、またマタギの世界へと戻ることになるのだが・・・。

マタギの世界、炭鉱の世界、異なる世界の仕事上での掟や

上下関係などが事細かに描かれていて、なるほど~と、

知らない世界のことをひとつずつ覗きながら知れる喜びが

あった。

 

鉄砲ひとつ持って出かけ、熊を射止めるなんて

単純なものではなく、山に入るにはそれなりの掟なんかが

きちんとあって・・・等々、山や自然と向き合うということの

重みがひしひしと感じられるシーンが続く。

 

炭鉱での話は特殊な上下関係があり、個性的な登場人物たちから

目が離せない。また、雪崩により長屋が流されるなど自然の

残酷さも描かれる。

 

 

◆男女の話も直球で!

 

 

さて、本書は富治の仕事の話ばかりではなく男女の話も
とても自然な形で話の中に組み込まれている。
お色気シーンもいわばモザイクがけなし、直球でやってくる。

 

富治の生涯に関わる女性は地主の娘とのちに結婚した妻。
妻と普通に暮らしていた富治の元に届いた一通の手紙から
この三人の関係が一気に動き出す。

 

このあたりの展開はなかなか緊張感があり、

胸に迫るものもが・・・。
特に妻の言動に心を揺さぶられました。

 

山に始まり、山で終わる。
富治の人生のまんなかには常に山があった。

 

そして・・・・
山の神の答えが知りたくて山に入った富治の最終場面は

物凄い迫力であった。
最後の最後に来て痺れる展開なのです。

 

書きたいことはたくさんあったはずなんだけれども、
どこをとっても読みどころと言える。
それゆえ、口惜しいほどレビューが書き辛い。

 

すぐれた文学は、読み手に、自分のそれとは全く

ちがう人生を体験させてくれる

 

 

解説の田辺聖子さんがおっしゃっている言葉をお借りした。
そう、まさに本書は私とは全くちがう人生を体験させてくれた

文学であったのだ。