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【レビュー】街娼 パンパン&オンリー : マイク・モラスキー

 

 

街娼 パンパン&オンリー : マイク・モラスキー著のレビューです。

 

街娼 パンパン&オンリー (シリーズ紙礫)

街娼 パンパン&オンリー (シリーズ紙礫)

  • 発売日: 2015/11/10
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 

 

「パンパン&オンリー」と言っても、彼女たちとそれを取り巻く世界は実にさまざまであった

 

 

以下、本書の作品。

「黄金伝説」 石川淳
「オンリー達」 広池秋子
「北海道千歳の女」 平林たい子
「蝶になるまで」 芝木好子
「人間の羊」 大江健三郎
「星の流れに」 色川武大
「嘉間良心中」 吉田スエ子
「ランタナの花の咲く頃に」 長堂英吉
* 「下が川だった頃」 堂昌一

 

終戦直後に現れた街娼たちを題材に、8名の作家が描いた短編集。
違う作家たちが集まって描かれている小説であるにも関わらず、どの作品も同質のトーンとでも言おうか、統一感があり、まるで一続きの世界にいるかのように綴られている。選出者の力量を感じずにはいられない。

 

わたしは平林たい子さんの作品のファンなので、それだけ読めればいいかな・・・と思い手にしたわけですが、他作品も素晴らしく、結局は次々とページをめくってしまうはめに。

 

テーマである「パンパン&オンリー」と言っても、彼女たちとそれを取り巻く世界は実にさまざまで、そのひとこま、ひとこまを拾い上げてゆくような作品群。

 

特に印象的だったのは吉田スエ子氏の「嘉間良心中」 。
年増の売春婦とアメリカの脱走兵サミーとの淡く儚く散っていった話。

 

パンパンと言えば派手なドレスにハイヒール、
真っ赤な口紅といった華やかな若い女性を想像しがちだが、本作は老娼婦の話も扱い、行く末のない切なさとやるせなさに読者は戸惑いを覚えながら静かに見守ることになる。

 

タイトル通り二人は心中してしまうのです。心中と言ってもほぼ老娼婦が一人で決めて実行する。ラストの様子は哀しくもあり尾を引くけれど、その一方でどこかこの結末に安堵している自分もいた。この娼婦にささやかな幸せが舞い降りて来たかのような感じがするのだ。

 

大江健三郎氏の「人間の羊」 では、バスの中での出来事が描かれる。
外国兵、パンパンが登場し、車内で問題が勃発する。
主人公の男性は外国兵に屈辱的な目にあわされる。

 

やがて外国兵はバスを降り、話が終結へと向かうのかと思いきや、ここからからがむしろ本番。事件を見ていた日本人の教員風の男が、「警察に届け出よう」としゃしゃり出る。気乗りしない主人公を連れて交番へ。そこからの教員風男のしつこさたるや・・・徐々に薄気味悪さすら感じると言う展開です。

 

一番狙いの平林さんの作品のラストはいろんな意味で怖かった。

「まぁ、おかあいいこと。旦那さまにそっくりですわ!」

・・・って、その子誰の子?という結末が構えている話なのです。

 

どの話も短編ながらもしっかり当時の雰囲気が伝わって来ます。
わたしにとっては未読の作家さんの宝庫とも言えそうなシリーズ。
次は「闇市」に潜入したいと思っています!