砂浜:佐藤雅彦著のレビューです。
ページを開けば、いつでも遊ぶことが何よりも大事だった夏休みがはじまる。
こんな風に夏休みを過ごしている小学生が、
まだまだどこかにたくさんいるといいな~と思えた、
子どもたちと海と夏の話です。
子どもたちは夏休みに入ると毎日飽きもせずに御浜に泳ぎに行く。
「すいがん」片手に50円ほどの小銭を持って。
西伊豆の漁村に暮す子どもたち、
御浜に行くには歩いて3-40分かかるので、
「渡船」という小型の連絡船に乗って往復する。
丸一日思い切り海で遊んだ後、またこの船に乗って家へ帰る。
心地よい一日が終わるころ、東京から避暑に来ている、
いとこのとしちゃんが、帰りの船に乗り遅れてしまう。
としちゃんは、走る、ひたすら走る。
そんなちょっとハラハラするシーンからはじまる夏物語。
全部で10話。
どの話もまるごと夏休みに包まれている。
潜ったり、かけったり、新しい遊びを発見したり、
時に近所のおじさんが大怪我をして運ばれたり、
おばあちゃんが話していた昔の村の話を思い出したり・・・。
子どもたちはのびのびと、
大人たちは大らかさと温かさを、
そんな村の雰囲気がとても心地が良い。
主人公の少年がはじめてひとりで沼津へ船で出かけるシーンも
こういった土地に住む子どもならではの経験なのだろう。
ちょっとハラハラしたけれど無事に戻り、
そして戻った先にとても嬉しい出来事が
待っていたあたりも心が弾む。
まったく知らない作家さんだったのですが、
古本屋さんで素敵なブックケースに収まった本書に一目ぼれ。
素朴でちょっと懐かしい雰囲気が内容ととても合っています。
実は随分前に買ったものですが、いつも目に入る場所に置き、
何度も読み返しています。ちょっとパラパラと読むつもりが
気づくと話に没頭しちゃうという・・・。
渡船に乗り遅れたとしちゃんの話は、
まるで自分が経験したかのように
今では鮮明に風景が思い出されるのであります。
ページを開けば、
いつでも遊ぶことが何よりも大事だった夏休みがはじまる。
そんな素敵な空間が広がる1冊です。
ケースから出すと、青い海が現れる。