スーツケースの半分は:近藤史恵著のレビューです。
感想
ひとつのスーツケースからはじまる女性たちの物語
ニューヨークへ行きたいという夢。休みを合わせて行きたいと提案するも気乗りしない夫。「老後にゆっくり行けばいい」と考える夫。友達とは行きたい場所が違うし、一人で行くだけの勇気がない。
そんな女性がある日、フリーマーケットで理想的な青いスーツケースを見つけ、衝動買いする。このスーツケースの出合いをきっかけに、彼女は一人でニューヨークへ向かうことにした。
・・・という話からはじまる小説は、その後、彼女の大学時代の友人の話へ次々バトンタッチされてゆく。
最初はよくある学生時代の女子たちの「その後」的な話しなのかな~と思っていたのですが、これが章を重ねるごとに話に厚みが出てきて目が離せないものになるのです。
それもこれもあの衝動買いした「スーツケース」がなんと「幸運を呼ぶスーツケース」というもので、これを持って旅に出るとみんな幸せになるという不思議な現象が。
なんらかの事情で友人たちもこのスーツケースを借りて旅に出ることになるのだが、ロマンスが生まれたり、現地の友人とのわだかまりが解消されたりと、その後の彼女たちに新しい活力が与えられるような話が続く。
実はこのスーツケースには深い深い過去あって・・・・。
後半はフリーマーケットでこのスーツケースを売った女性と娘の話に移行します。いろいろないきさつを経て、スーツケースはこの売り手だった女性の元へ戻るのです。
さて、このスーツケースにはどんな過去が?
スーツケースの半分は・・・お土産を入れるために空けて置くんでしょ?なんてタイトルを見て考えていたんだけれども、この小説では残りの半分は「自分に足りなかった何か」を見つけ、それを詰めて帰って来るってことなのかなーと。
ライトな読み心地であったものの、スーツケースと人々を自然な形で繋いで、新鮮な展開をみせてくれる内容であった。
旅に出たくなったというより、なんだか自分のスーツケースまでもがめちゃくちゃ愛おしくなった。スーツケースはいわば旅の相棒。一緒にいろんなところを見てまわったという意味で、本当はすごく深い仲なんだなーと(笑)