谷崎潤一郎文学の着物を見る:大野らふ,中村圭子著のレビューです。
感想
「細雪」の冒頭部分で、着付けをしているシーンが登場する。中姉ちゃんが息をすると、袋帯が「キュウ、キュウ」と云う音がするたびに可笑しくて姉妹が笑い転げるという場面なのだが、この細やかな着物の描写がとても印象的で何度読んでも思わず頬が緩んでしまう。
谷崎文学において着物は切り離せない重要なアイテム。どんな着物であるのかは、文章から想像するという域を超えられなかったわけだが、本書を開くとその数々の着物たちが、色をもって目の前に現れる。
例えば、谷崎の妻・松子とその姉妹が京都へ花見に行った写真は有名で、私も彼女らの着物を何度も食い入るように見てきた。乏しい色彩感覚しかないものだから白黒写真で満足していたわけだが、本書ではその着物がしっかりカラーで再現されている。これは結構な感動を呼ぶもがありました。
・・・と同時に余計なことだが、こんな華やかな女性たちに囲まておっちゃんは京都を練り歩いていたのか!と、なんでだか、ファッションショーの最後に出てくるデザイナーとモデルという図が頭の中を駆け巡る。
本書は谷崎の家族の着物だけでなく、谷崎作品に出て来たあの女性たちの着物を忠実に再現して掲載。
「春琴抄」の傲慢な女・春琴の粋な着物。
「細雪」の華やか四姉妹の個性的な着物。
「痴人の愛」の破天荒娘・ナオミの女学生スタイルの着物。
「台所太平記」で主人のお供をする女中の銘仙。
…等々、続々と登場。
思ったものよりずっと派手で自由・・・といった印象。
柄×柄とか誰でも着こなせるというわけではなさそうに感じるが、当時はこういうのが主流だったのでしょうか。
ナオミの黒いマントはすごく格好いい!まさに女王様降臨!といった雰囲気。日本人離れしたスタイルのナオミだったからこそ着こなせたのだろうな~。という感じで、着物+作品+谷崎の人物像等々、充実した内容でした。
まだまだ知らない作品も多く、これはまた近いうちに未読の作品を、なんとかしなくては・・・という焦りも運んでくるというニクニクシイ一冊なのである。
作品を読むときにはすぐ近くに備えておきたい1冊です!照らし合わせながら読んだらきっと作品が今以上に艶艶な世界に変身することだろう。