エストロゲン :甘糟りり子著のレビューです。
難しいお年頃なんです
冬がやってくる。
千乃も真子も泉も、冬がやってきたことに気がつかず、コートを着ないままなのだ。
それとも心の中ではみんな気がついているのだろうか。
もう若くない、いや、まだ大丈夫かも?
日の当たる場所で鏡を見て「うっわぁ」と驚いたかと思えば、化粧でなんとか誤魔化せた!と安堵したり。
そんな些細なことに日々翻弄されるようになったのはいつからだろう?もうとっくに冬がやって来ていることに気づいているのに、コートをギリギリまで着ないでいる気持ち…。冒頭引用の女性たちと自分もなんだか一緒だなぁ。
本書は40代の女性たちの恋愛を描いた作品です。
同級生3人の女性たちのそれぞれの恋愛事情を取り上げているのですが、なにげに過激でした。
実際、40代の女性たち全てがこんなにめくるめく日々で恋愛に溺れているわけじゃないと頭では分かっていても、甘糖さんのリアルな描写にうっかり引き込まれてしまいました。
初読みの作家さんなのですが、女性が注目するアイテムをとても上手に小説の中に取り入れているなぁという印象が強く、だからより一層リアリティが増したのではないかと思います。
さて、どんな女性たちが登場するかというと…
・モールのカフェでバイト中に出会った男性と恋におちる女性。
・憧れの韓国スターの身代わりのように若い韓国人男性と付き合う女性。
・社長夫人でヌードグラビアのモデルをやり、のちに同級生と関係をもつ女性。
なんだか書いていて「んまぁ!」と言いたくなっちゃう女性たち。
「女としていつまで見てもらえるか」。
男性は男性で「いつまで機能するか」。
そんな焦りを各登場人物を通して思い知る。
また、大人ならではの恋愛観であったり、大人になっても学生時代と変わらないピュアな部分が顔を出したりと、改めて難しいお年頃なのだと感じます。
各々自分たちの生活スタイルも確立していて、避けて通れない部分もあれこれある。目の前にある恋愛に純粋に没頭できない現実もあるわけで…。
目に見えないエストロゲンが少しずつ少ずつ女性の体内から減るようにやがて彼女たちの生活も変化が訪れる。
この小説を読んでいて「第二の思春期」という言葉が思い浮かびました。
親や先生に抗っていた10代。そして、年齢と自分の体に抗う40代。
どちらも厄介だけど、付き合わなければならないんですよね。
そろそろ寒くなって来たことを認め、厚手のコートを着ないとなぁ…。
と思いつつ、いや、まだいいか…と行ったり来たりの冬はまだまだ続く。