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うずまきぐ~るぐる

本の紹介や日々のことをぐるぐるかきます

女体についての八篇 晩菊

本の紹介(アンソロジー)

 女体についての八篇 晩菊のレビューです。

 

 

◆別れたあの時より若やいでいなければと支度する女の気迫。

 憎まれても覚えていて欲しい男の執念。生身の人間の姿に呑み込まれた私。

 

 

「女体」をめぐる8篇に安野モヨコの挿絵。
名だたる文豪の作品も、安野モヨコ氏の装丁画なら、
なんとなく気軽に読めそうと思えるから不思議だ。

 

以下、本書の作品群。

 

美少女     太宰治
越年      岡本かの子
富美子の足   谷崎潤一郎
まっしろけのけ 有吉佐和子
女体      芥川龍之介
曇った硝子   森茉莉
晩菊      林芙美子
喜寿童女    石川淳

 

よくぞ好きな作家たちが集合してくれたなぁと
目次を見ただけでも満足モードになってしまいそう。

 

おっちゃんの「富美子の足」が一番狙いだったのですが、
あえてこの中で順位をつけるとしたら、表題作の「晩菊」が
一番面白かった。

 

林扶美子の作品の中でも群を抜いて「生身の女」を
感じさせられる話で、冒頭から女臭がムンムンと漂ってくる。

 

56歳の女性が元愛人と再会する話なのですが、
その男性と会う前の風景が秀逸。
まさに戦う前の武装準備といった女の描写が素晴らしい。

 

ゆっくり湯にはいり、帰って来るなり、冷蔵庫の氷を出して、
こまかくくだいたものを、二重になったガーゼに包んで、
鏡の前で十分ばかりまんべんなく氷で顔をマッサアジした。
皮膚の感覚がなくなるほど、顔が赤くしびれて来た。(・・・続く)

 

 

別れたあの時より若やいでいなければと、
彼女は老いに立ち向かう。

 

容赦なく年齢が牙をむく鏡の中の自分。
しかし彼女は女であることを忘れたくないのだ。
世間の老婆の薄汚さになるのならば、死んだ方がましだと考える。

 

支度をしながら昔の自分の姿を思い出しながら、
男と会うまでの心理描写が細かく描かれているのが
なによりも印象的な作品であった。

 

男女のやり取りも、お互いの思惑が見え隠れし面白いのだが、
私的には何と言っても女がいつまでも女でありたいという
その執念にしびれました。

 

林扶美子は長編や随筆を好んで読んできたけど、
短編もいいな~と。特にこの作品が読めて本当に良かった。

 

そのほか、岡本かの子「年越」も楽しかった。

 

♪わたしを許さないで、憎んでも覚えてて♪

 

この作品を読んでいて、
松任谷由実の歌のフレーズを思い出した。

 

好きな女になかなか告白もできずに会社を去ることになっていた男。
想いを伝えられず去ってしまえば、すぐに忘れられてしまう・・・・。
切羽詰まった男は結局好きな女の顔を撲って姿を消したのだ。

 

撲られた女は男の気持ちなど知らず、ただひたすら悔しくて悔しくて、
意地でもその男を見つけ出し、仕返しをしようと毎晩男を探しに
銀座へ出かける。
・・・さて、このふたり、再会はできるのだろうか?

 

やっていることが子供じみていて思わず笑ってしまったのですが、
確かに女はずっと憎々しい思いをもって男を覚えている。

 

話の行方が気になってどうにも途中で本を閉じることが

出来なかった作品でした。当時の銀座の街と、年の瀬という

ちょっとした緊迫感が相まって雰囲気も良い。

 

谷崎の「足フェチ変態路線」も健在で嬉しくなってしまったのですが、
今回は林扶美子と岡本かの子という濃ゆい女子2名の作品に

心をもってかれました。

 

「谷崎のおっちゃんは足で踏まれていなさい!」と、
今回は書評も手抜きになっていますが、今際の際まで

足で踏まれたいという主人公。その願いを全うさせた貴方は偉い!と、
心の中ではスタンディングオベーションしたんですからねっ!