泥棒たち :アントンP.チェーホフ著のレビューです。
堅気な男が、たった一晩で転落してゆく・・・そのきっかけは?
これもなかなかシビアな話だったなぁ。読後のドロンとした暗い気持ちは、
なんとも言えないものがある。
准医師の資格を持つエルグノフは病院の買い物をするために馬に乗って出かけたのだが、帰りに吹雪に遭い道に迷ってしまう。辿りついた先は、悪名高い宿屋。仕方なく彼はドアをたたく。
その宿は盗賊の巣窟というだけあって、さっそく詐欺師兼馬泥棒という男や、お色気たっぷりのリュープカが登場する。
自分の馬が盗まれやしないかと心配しつつ、エルグノフはこの男たちと食事をともにし、様々な鳥肌のたつような話を聞きながら一晩を過ごすのだが・・・。
やがて彼の心境に変化が訪れる。
自由に伸び伸びと生きているように見える彼ら。
アルグノフはそんな彼らを羨み、憧れを抱く。
それにひきかえ自分は?・・・という疑問を自分に浴びせかける。
その後彼が歩んだ道は・・・・。
一時の出会いから彼のような堅気の人間が、一気に転落してしまうというなんとも言えない話なのですが、「自由」とは「当たり前」とは…等々、生きていると必ずぶつかる疑問を最終的には問うてくる内容であった。
「箱に入った男」の皮肉な結末に苦笑してしまったのはつい最近のこと。型にはまった男の話であったが、今回の話の主人公もまた堅気な仕事に就き、どこか息苦しさを感じていたのだろう。
そしていつしかその姿はチェーホフの心のなかにあったものではないかと感じる。うんと羽目を外してみたい、うんと恋をしてみたい。そんな心の叫びが小説に反映されたのではないかと、思わずにはいられない。
ということで、悲哀に満ちたチェーホフの作品が続いているが、次はどんな雰囲気の作品が待っているのだろうか。