彼女の家出:平松洋子著のレビューです。
感想・あらすじ 料理する者だけが知る至福の時間
「野蛮な読書」で一気にファンになった平松さんのエッセイ。
食関係の話はもちろんのこと、日常の何気ない話もなかなか侮れない面白さがある。
というわけで、久しぶりに読む日常エッセイ。相変わらず読み心地がいいですなぁ。変な表現ですが、平松さんの文章って読者に「読んでいる」という感覚を強く与えてくれる。言葉がギュギュと音をたてながら迫りそれが不思議な充実感に。
「夜中の腕まくり」
二十二時四十分。パジャマにカーデガンをはおって料理を始める平松さん。
あとで焼酎を使うことを言い訳にまずはイッパイ。
そして、ゆっくりゆっくり煮込み料理を作る。
なんとも豊かで幸福な時間が伝わってくる文章にうっとり。
目の前で料理をしている人の姿、音、匂いが存分に感じられる言葉の数々に酔いしれる。この話を読んでいると、早く北風吹く寒い冬がやって来ないかな・・・と思わされてしまう。
しんと静まりかえった夜中の台所とゆだった牛すじ。
牛すじと楽しそうな時間を過ごしている平松さんにわけもなく嫉妬(笑)
と、結局食の話に目が行ってしまうわけだが他にも、何度も同じ運転手のタクシーに乗ったという「再会タクシー」。
実家に帰り、自分の部屋に泊まって感じたことを綴った「実家の空き部屋」。
一日乗車券を買い都電の駅を自由気ままに小旅行する「都電一日乗車券」。
数行読めばすぐに話に夢中になってしまうものばかり。
お年頃の話題はクククッと小笑いが。
━━ひとは見たくないものは見ないらしい
拡大鏡で見た自分の姿に腰を抜かしそうになった平松さんが最初に浮かんだ言葉がこれ!還暦目前にして様々な戸惑いなども語られている。
全体的にこれまでのエッセイよりまろやかに感じたのはなんでだろう。
でも最終的にはやはり「濃厚」なものを食したあとのような満足感というか、満腹感が・・・平松さん、恐るべし。