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【レビュー・あらすじ・感想】煙が目にしみる 火葬場が教えてくれたこと:ケイトリン・ドーティ

 

 

煙が目にしみる 火葬場が教えてくれたこと:ケイトリン・ドーティ著のレビューです。

 

 

感想・あらすじ

初めてひげ剃りをした死体のことを、女は死ぬまで忘れない。(本文より)

 

初めてひげ剃りをした死体のことを、女は死ぬまで忘れない。

 

冒頭からドキリとする一文を目にし緊張が走る。彼女は20代の火葬技師見習いとしてウェストウィンド社にやって来た。その初日に与えられた仕事が死体のひげ剃りだったのだ。

 

本書は彼女がウェストウィンド社で日々出会った死体の数々、遺族、火葬について等を包み隠さず綴った日記のようなもの。それゆえかなりハードな場面にしばしば遭遇することになる。

 

人の最期の姿。ある者は病気で、ある者は事故で、ある者は薬物で。
小さい赤ちゃんから、棺に入りきれないほどの大きな者。
献体で一部だけの身体の者・・・。
毎日毎日、彼女の元へはたくさんの死体が訪れては焼かれてゆく。

 

 

 

 

内容は仕事の話に止まらず、死生観を考えさせられる話も多い。所変われば葬り方も様々で、各国の例を織り交ぜながら進むので、大変為になった。また近年よく行われているエンバーミングのあり方や処理のし方などもなかなか考えさせられた。

 

日本の「おくりびと」とどうしても比較してしまうことも多かった。ウェストウィンド社で行われている別れの場面は事務的とでも言おうか。流れ作業のような雰囲気だ。

 

多くの遺族は火葬の場には来ない。遺体の多くは家や病院から引き取られ火葬され、そして遺骨(粉骨)が後日遺族の元へ届けられるというシステムのようだ。

 

もちろん火葬に立ち会うこともある。しかし火葬のスイッチを遺族が押すこともできるなど、その送り出し方も日本のそれとは大きく異なる。

 

アメリカと言っても州によって法律もまちまちだろう。本書舞台のカリフォルニア州の法律では(埋葬など人の遺骸の処理は、閉鎖された場所で行わなければならない)というものが定められている。

 

 

 

 

さて、彼女自身のプライベートで起きたことなどを含め「死」がとても近くに感じられる内容に複雑な気持ちを抱えつつ後半へ。

 

彼女はやがてウェストウィンド社を退職し、葬儀学校に入り葬儀ディレクターの資格を取る。そして、死と向き合う彼女の仕事の第二章がはじまるところで話は終わる。

 

右も左も分からなかった彼女が遺体と真摯に向き合うことによって、彼女自身の「死」の捉え方がどんどん太くなってゆく感じがした。しかしこればかりは、一気にというわけにはいかない。休憩やリセットする時間なしに進めることは精神的にもきつかったと思う。そういう意味でも彼女が一度退職をし、さらに勉強を進めた選択は良かったと思う。

 

 

 

 

とにかく読み始めたら止められない興味深い話ばかりだったけど、なかなかシビアな話であるゆえ書評として書くのは難しい。紹介したい場面もたくさんあったのですが・・・。

 

ただひとつ言えることは、私たちにも「死」は必ずやって来る。どんな身分の人であろうとも、どんな形で亡くなろうとも、最後はみんな同じ灰になる。

 

たくさんの人々の身体が火葬され消えてゆく。当たり前すぎることなんだけれども、それをまっすぐ見据えることは本当に怖くて容易なことではない。この本はそんな怖くて触れられない部分を包み隠さず見せてくれた。

 

読後も悪くない。
もっとじめっとしてしまうかと思ったけれども、意外にもカラッとしていたのは、著者がハワイ出身だからだろうか。