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うずまきぐ~るぐる

本の紹介や日々のことをぐるぐるかきます

歩道橋の魔術師: 呉明益

本の紹介(海外文学・その他)

歩道橋の魔術師: 呉明益著のレビューです。

歩道橋の魔術師 (エクス・リブリス)

歩道橋の魔術師 (エクス・リブリス)

 

 

 

◆小説なのに映写機から映し出される

        「中華商場」を見ているような心地がした

 

 

表紙とタイトルに惹かれ、
読める日を楽しみに待っていた「歩道橋の魔術師」。

 

「中華商場」が舞台ということで、
なにか混沌とした世界が見られるのではないかと、
本を受け取った時から気持ちが浮ついて落ち着かなかった。

 

想像通り、この本には独特な世界があり、
それは懐かしいようなどこかで見たような感覚を呼びさます。

 

全部で10の短編は、
子供時代の思い出を振り返るようなもので
話自体は特に山場があるようなものでもない。

 

しかしながら読み始めたら見えない柵に囲まれて
決してそこから逃げられないような雰囲気があった。

 

「中華商場」は商店がひしめき合い
8棟からなる3階建ての巨大商業施設だそう。
その距離は1㎞以上も続くという。

 

そこには狭いスペースで暮らす人々の日常がある。
子供たちは大人たちの仕事を見つめ、手伝いをし、
混沌した風景のなかに溶け込んでいる。
中華商場で死ぬ者もいれば、動物だってやって来る。

 

そんな日常とは裏腹に登場する謎の存在・歩道橋の魔術師。
各エピソードに彼が出てくることによって、

「夢の中の出来事だったのかも?」
というなんとも曖昧な世界へといざなわれるのだ。

 

たしかに「中華商場」自体もう存在していないだけに、
幻をみているような印象が残る。

 

どの話も読んでいるときは夢中になっていたが、
こうして書評を書き始めると、自分の記憶自体が

なんとも頼りない。

 

例えば、
巨大なネオンに石を投げつけていたシーンとか、
飼っていたブンチョウのシロちゃんとクロちゃんが無残な姿で
死んでいたシーンとか、女子トイレの壁にあるいたずら書きの
「九十九階」のボタンとか・・・

 

ストーリーそのものよりも、断片的に鮮明に思い出せる場面があって、
それはあたかも自分の目で見て来たかのように記憶の中に刻まれている。
この感覚がとても不思議なものであった。

 

読後感は恒川光太郎氏の「夜市」あたりかな~。
知らない世界を彷徨ってきたような感じでした。

 

私的には雰囲気を食べるような、
いや、雰囲気に思い切り呑み込まれたような心地です。

 

中華商場のような場所は、日本も台湾も、
そして世界的にもどんどん失われていくのだろう。

 

しかし、こういう場所こそが、
人を魅了する文学が生まれてくる場所なのではないだろうか。

 

松下電器」の煌々と輝く大きなネオンを見ながら、
今はもうない夜の中華商場の風景写真を眺めている。

 

不思議とツンと来る懐かしさがこみ上げて来たのは、
わたしもまた中華商場の風景の中にさっきまで居たからかもしれない。