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うずまきぐ~るぐる

本の紹介や日々のことをぐるぐるかきます

川の光:松浦寿輝

川の光:松浦寿輝著のレビューです。

川の光

川の光

 

 

◆川辺を目指して、走る、走る、俺たちー 

 

 

この本を読んでからというもの、無性に自分の足元にある
低い世界のことが気になってならないという現象が続いている。

 

タータとチッチ、おとうさんネズミ。
本書は川辺に住んでいるネズミの親子の物語。

 

親子の住んでいた美しい川辺は工事のために

住めなくなってしまった。新天地を求めて移動する親子。

 

大雪など自然の危険だけでなく、車の往来、人間の往来、
自分より大きな生き物等々、ネズミにとっては注意しなければ
ならないことがあまりにも多く、それはもう命をかけての
引っ越しなのであった。

 

なかでもドブネズミ帝国で暮らすネズミたちは

同族であるにもかかわらず、親子に絡んで嫌がらせをするなど、

その姿はまるで人間社会のようでもある。

 

悪い奴もいれば心から親切にしてくれる者、

助けてくれる者も登場し、その素晴らしい連携に

どれだけ彼らを頼もしく思い助けられたことか。

 

そして、ネズミの親子から感じ取れる家族愛。
特に父ネズミが子ネズミを思う気持ちに思わずホロリ。

 

人間が移動すればあっという間の距離なのかもしれない。
しかし、ネズミの親子にとって、まだ見ぬ川辺の風景は

果てしなく遠い。それでも彼らは美しい川辺での生活を

決して諦めない強い意志を持って立ち向かう。

 

そんな小さい者たちの姿に一喜一憂しながら
物語は最後のページまで生命に満ち溢れている。

 

わたしは実際、地下鉄のホーム下を

ひたすら走っているネズミを見たことがある。
街中をよろよろした姿で歩いていたネズミを目撃したこともある。

 

物語を読みながらそんな彼らの姿が重なり合う。
あの時のネズミはひょっとしたらこの子たちだったのでは?と。

 

今となってはあんなに気持ち悪いと思っていたのに、
なんだか無性に愛おしく思えてしまう。

彼らもまた生きるのに必死なんだなぁと。

 

もし、街中で大急ぎで道を横断しているネズミを見かけたら・・・。
もし、図書館の本が何者かによって齧られていたら・・・。
もし、バスの中で小さい鳴き声が聞こえてきたら・・・。
もし、主人の目を盗んでいそいそお出かけする犬がいたら・・・。
もし、少年が小さいネズミを手の中に持っていたら・・・。
もし、ちょっと色気のあるもぐらがわたしに流し目をしてきたら・・・。
もし、忙しそうに行ったり来たりするすずめがいたら・・・。

 

そんな彼らの気配を感じたら、今度はきっと応援したくなるだろうな~。

 

さて、物語はこれで終わりではなさそうだ。続編があるそうですが、
私としてはしばらくこの物語の余韻に浸っていたいので、
続編は先になってからのお楽しみにしておこうと思う。