リーチ先生:原田マハ著のレビューです。
陶芸へ情熱を注ぐバーナード・リーチと仲間たち+日本民藝館探訪記
マハさんのアート小説とはちょっと距離を置くべきか?と、迷っていたのですが、もう一冊読んでから考えようとして選んだのが本書。しかも長編が読みたかったのでナイスタイミングでした。
リーチ先生ことバーナード・リーチ。
名前こそ知ってはいたがどんな作品を作り、どんな生涯だったのか?
なんてことは、まったく知らなかった人物。
特別興味もなかった人物に関する小説、しかも460ページ余りあるボリュームに気持ち的にも最後までたどり着けるか不安はあったものの後半はグイグイ引き込まれてしまいました。
バーナード・リーチはイギリスの陶芸家。
西洋と東洋の架け橋になろうと若き日のリーチ氏は日本にやって来て、そこで助手としてリーチ氏を支え続けた亀乃助と出会う。
この小説はリーチ先生の話であるわけですがそれと同じくらい亀乃介の存在は大きく、二人の人生を描いた小説と言っても過言ではないだろう。
また、高村幸太郎をはじめ柳宗悦や武者小路実篤、濱田庄司など、有名どころが続々登場。リーチ先生や亀乃介と強く太い友情で繋がってゆく様子が胸熱であるのです。
読み進めるごとにリーチ先生のお人柄に惹き込まれ、時に亀乃介の献身的な支えに息苦しさえ覚え、そして彼らを取り囲む人々の寛容で静かなサポートに胸を打つ。
舞台は日本とイギリス。
どちらの生活も陶芸に、特に「土」にこだわりを持ち続けるリーチ先生の強い想いが感じられる。
明治、大正、昭和、刻々と変わり続ける世の中。
やがてリーチ先生と亀乃介も離れ離れになる時がやって来る。
ここで話が終わると思いきや、
1954年、リーチ先生は大分の焼き物の里・小鹿田を訪れる。
そこで彼は意外な人物と出会う。
・・・人生を振り返るようなラストの話は、感動の渦へと。
ひゃーこれです。マハさんの涙腺を崩壊してしまう恐ろしいボタン!結局今回もじんわり来るラストに「やっぱ止められんな」と独り言。ついでにリーチ先生への興味も相当ボルテージが上がり、近日中に実物を観に行こうと決めた次第です。
知らない人物に対してここまで興味を持たせてくれたこと、そしてそのアートに触れてみたいと思う気持ちにさせてくれること。マハさんのアート作品の醍醐味はこれに尽きる。
今後も展覧会に間に合わせて書く小説というより、ある人物をじっくり描く長編をメインに書いていただきたいなーと。
【おまけ(にしては長いけど)】
さてさて、この本を読み終え、どうしてもリーチ先生の作品を観てみたい、特にスリップウェアを肉眼で!ということで日本民藝館に行って参りました。
丁度、「柳宗悦と民藝運動の作家たち」 2017年1月8日(日)~3月26日(日)が
特別展として開催され、これは願ったり叶ったり。
目黒区駒場の閑静な住宅街にひょっこり現れた民藝館。
扉を開けるとどっしりした階段、落ち着く空間が広がっていました。
建物自体が素敵すぎる。そして展示品を飾るケースの家具、高い壁から垂れ下がる鮮やかなタペストリー、時間があればずっと居たいなーと思わされる場所です。
ディスプレイやお花の生け方など素人ながらもとても勉強になりました。
やっぱり美しいものは定期的に見るべきですなぁ。
心がふっくらしてくる気分にさせられました。
さて、リーチ先生をはじめ柳宗悦、河井寛次郎、棟方志功など本書に登場した人々の作品が目の前に。本を読んでいたからこその感動がじんわりと沸き起こるなか、今回一番印象的だったのは、西館(柳宗悦邸)で観たビデオです。
リーチ先生や宗悦の肉声での対談を聞いたときの驚きと言ったら。(鳥肌)まるでこの本のなかの世界がそのまんま目の前で繰り広げられているかのような錯覚が!意見をぶつけ合いながら話が次々と展開される。
この方たち、本当に本当に毎日陶芸に気持ちを注いでいたのだなぁーと、小説のシーンを一つ一つ思い出さずにはいられない。
今回リーチ先生の展示物のなかに素描があったのですが、そこに「リーチ」とカタカナ表記でサインされていて、そのお茶目さに思わずクスリと笑ってしまったのですが、リーチ先生、日本語での会話も物凄く流暢です。本当に日本人とたくさん交流したのでしょうねぇ。
「日本は陶磁器にとって、とても幸せな環境にある」という話が皆の間で語られていたのが印象的でした。全国に広まった焼き物の数々は人々の繋がりがあってのものだそう。
私たちが現在使っている陶器たちがどんな過去を持っているのか?
大変貴重な話を聞いた気分です。
ということで本書から得たものは想像以上に大きかったです。
目的のスリップウェアも見られたし、個人的には双硯や陶硯なども大変興味深く鑑賞してきました。
日本民藝館へお出かけの際は、是非、西館(旧柳宗悦邸)が公開されている日に合わせて行くことをおすすめします。書斎には天井まで本がびっしり並んでいてこれも見応えがありました。