たまさか人形堂物語 :津原泰水著のレビューです。
◆ラブドールも普通の人形に思えた!?
「たまさか人形堂」はOLの澪が祖母から引き継いだ人形店。
「諦めてしまっている人形も修理します」という広告を出し、
人形マニアの冨永くんと謎の職人・師村さんが、壊れた人形たちを
次々と救済して行きます。
やって来る人形たちの持つ様々事情はどれも複雑ですが、
やはり注目したのはラブドールの話。
多分、この作家さんも「南極1号伝説 ダッチワイフから
ラブドールまで-特殊用途愛玩人形の戦後史 」を読んだのだろうな~
と思われる話が随所に出てきて、私的には「南極1号の復習」を
している感じで「そうそう、そうなんだよね」と、まるで予習してきた
優等生気分で読めて、気持ちが良かった(笑)
「恋は恋」という短編の中にこのラブドールの話が出て来る。
「ラブドールのユーザー」 ─────この部分、妙なオタク趣味感もなく、
自然に描かれているのには感心してしまう。
「南極1号」に出て来るユーザーたちが小説になったら
きっとこうなると言える内容。
最初は「ん~~」と思っていたけど、人形と過ごしていくと
愛着が出てくることはむしろ普通じゃないの…と、登場人物たちを
通して気がついたというか、ラブドールも普通の人形と同じ視点で
見られようになるというこのマジック!お見事。
「毀す理由」の話では、壊す、壊れる、
この他動と自動の部分に焦点を当てて、
人形がどういったことが原因で「たまさか堂」へ来たのか考え、
人形だけを修復するということに止まらないなかなか面白い話でした。
人形本に出てくる人形たちの多くは、人とともに歩んできた歴史があり、
その想いを人形たちが背負っている。
本書もそんな人や人形の背景の謎を、個性的な登場人物達と一緒に
探りながら面白く読み進められます。
やがてこの「たまさか人形堂」は閉店に追い込まれるのだが…。
様々な人形たちをテーマに、全体が一つになっている小説。
淡々とした雰囲気ですが、ひとつひとつの話は微妙に重い。
そして何よりラブドールを扱った小説って滅多にないだろうと
思うと、ちょっと得した気分でした。
※本書では「ラブドール」は「ラヴドール」と表記。