更級日記 :川村裕子著のレビューです。
◆乙女度が高い日記です
旅、本、恋、等の話題が意外にも多く、この日記は
とっても乙女度が高い。
特に作者の菅原孝標の娘は「源氏物語」を愛読書にする文学少女。
いつか自分のもとに光源氏のような素敵な男性が目の前に
現れないかと、目をウルウルさせる夢見る少女だった。
その姿が微笑ましくって「うんうん」と彼女の話を聞いているような
感覚で読み進めました。
この日記はそんな彼女の生涯を綴ったもので、少女期から
53歳までの回想録。少女から母親へ、そして老後へ続く
一連の生活風景は現代に通ずるものがあります。
無邪気な子供時代に比べ、後半はそれなりの人生の
重みが実感できる内容です。
作者の父菅原孝標が上総国(千葉県)での任期を終え、
一家で京都に引き上げていくところから書き始めます。
私はこの少女時代の日記が好きです。彼女はいつも物語に没頭し、
物詣でに行っても真面目に祈らず、不信心のまま、ひたすら
物語に浸っています。
彼女の憧れは「浮舟」のように男性に隠されて
「花、紅葉、月、雪」といった自然に浸りながら生活し、
たまにくるお手紙を待ちながらひそやかに暮らすということだった。
そんな夢見る少女はやがて、乳母や姉の死、父の単身赴任による
別離などを経験して、大人の女性になります。
ここで彼女の履歴と日記の流れを記しておきます。
第一章 旅の記 (13歳)
第二章 都での生活 (13歳~31歳ごろ)
第三章 宮仕えから結婚 (32歳ごろ~37歳)
第四章 物詣での記 (38歳~47歳ごろ)
第五章 晩年 (48歳ごろ~52歳ごろ)
印象としては、この時代にしては婚期が遅かったことや、
晩年と呼ぶ時期が恐ろしく早いといったところでしょうか。
第三章はやっとキャリアに目覚めたのも束の間、
親の勧めで結婚することになるのですが、
仕事か結婚かと悩む姿は現代人そのもの。
彼女は結婚しますが、パートタイムという形で宮仕えもしている。
そこで素敵な男性・資道と出会う。「もし結婚していなかったら…」と
悔やむ乙女心。
この男性の登場時期は読者が喜びそうな絶妙なタイミング。
今後どうなるのかワクワクします。さてどうなるのか?
現実の厳しさを知り、やがて第四章の中年期です。
ここでは気持ちを入れ替え、家庭を大事にする良い妻、良いお母さんへ。
そして娘時代の反省も含め真面目に物詣でに励みます。
仏様を信じるようなり夢占いなども登場。
晩年は、最愛の夫の死により悲しみのどん底へ。
しかし、この日記を書くことを思いつくのもこの時期でした。
華やかさや大きなロマンスはないけど、時代が違えどなんとなく
心的に親近感を覚える内容で、好きなパターンの古典でした。
自分のこととはいえ40年にも及ぶ日記とはたいしたもんですよね。
自分がこの年齢に達した時、思い出せることがどのくらい
あるのだろうか?そう思うと彼女の記憶力ってスゴイと思うのです。
他の日記もこのシリーズで制覇しようと思います。
※「更級日記」の「更級」は、作者の夫の赴任先、
信濃国更科という地名に由来。