頭痛肩こり樋口一葉:井上ひさし著のレビューです。
樋口一葉を表すのに、なんてピッタリなタイトルなのだろう!
単純な構成だけど、すごく面白かった。
先日読んだ「一葉」は、樋口夏子の一途な想いや戸主としての責任、そして借金に追われる毎日で、読んでいる側にも切羽詰まった感じが息苦しくもあったのですが、こちらは、同じ人物の話なのに、とても軽快で登場人物の様子がダイレクトに伝わって来る感じがとても良い。
舞台は夏子の家。
毎年のお盆という日を取り上げ、それを繰り返すパターンという単純な構成なのですが、同じメンバーが夏子の家に集まり、皆の状況が少しずつ変化している様子が伺える。
ぼんぼん盆の十六日に 地獄の地獄の蓋があく 地獄の釜の蓋があく
暗い中から、少女たちによる、童うた調の、盆の練り歩き唄が近づいてくるシーンから始まるこの話。
夏子、妹・邦子、母・多喜。そして、昔、多喜が乳母をつとめた元旗本の娘・稲葉鑛、夏子と邦子の姉妹の幼なじみの中野八重が加わり、女性達の姦しい世界が毎年繰り返されます。
一番のおもしろどころは、遊女の幽霊・花蛍の存在です。
この幽霊、毎年恨みの相手を探しさまよう幽霊で、その姿は夏子にだけ見える。
花蛍と夏子のやり取りが絶妙なんですが、幽霊が見えない他の女性達には夏子の妙な言動に、おかしくなったのでは?と困惑したりと、ユーモア溢れた設定も楽しい。
この話に出てくる人物はみな女性。立場は違っても、各々、頭が痛くなるような生活事情を抱えています。夏子の一家も相変わらず、経済的にキツイ状況は変わらない。しかし、どの女性たちも地道に力を合わせてなんとか踏ん張って行く。
そんな女性達が繰り広げる世間話や身の上話が聞こえてくる風景は、今も昔も変わらない賑やかさがあり、女性ならでは世界だなぁと、すっかり樋口さんのお宅にお邪魔した気分になりました。
そして、私はこのタイトルにしびれまくっています!樋口一葉という人物を表すのにこれ以上ないというくらいぴったりだなぁ。最高です。私自身、どっちの症状もよくあるので、ますます一葉さんが身近な存在に(笑)ようやく、樋口一葉の輪郭がくっきり見えて来ました。
鳥越碧著の「一葉」では、夏子の心の裡を。本書ではそんな心の裡を秘めながら、家族や周りの人たちと過ごす日常を。そんな両面を2冊読んでようやく見えてきた気がします。