ギュレギュレ:斉藤洋のレビューです。
話術が凄いぞ!謎のトルコ人の押し売り!?
ある朝、「ごめんください!」という声のあと、
ドンとマンションのドアに体あたりするような音が聞こえました。
これから起こるすべてのことは、この朝のシーンからはじまります。
ひとり暮らしのぼくの家にやって来たのは年齢不詳のトルコ人。
日本人のぼくにいきなり「ギュナイドゥン」と大きな声で言ってくる。
もうすでに怪しい雰囲気満載のトルコ人に私までもが身構えた。
しかしものの数ページでトルコ人の話術にハマってしまった。
そしてこの日は、「見えない穴」と「不思議なじゅうたん」を
5万で売ってトルコ人は帰って行きました。
わたしはてっきりインチキ押し売りだと思っていたのですが、
トルコ人がたびたび彼の家にやってきてセールスする。
売りつけるものは決して粗悪品ではなく、
むしろ持っていたらすごく便利だろうと思わされるものばかり。
しかも他では手に入りそうもない。
値段も高すぎて買えないってほどじゃない。
ちょっとがんばれば買えそうな値段設定もニクイのです。
一体どんなものを売りに来たのかは是非読んで楽しんでください。
さて、奇想天外のモノが出てくるだけではなく、
トルコ人とぼくの会話がめちゃくちゃ面白い。
ボケとツッコミではないけれど、ちょっとしたコントを聞いているかのよう。
このトルコ人の言葉に対するこだわりとでも言おうか。
ちょっとした言葉に異様に執着する。
お客さんであるぼくの不慣れなトルコ語に対しても
たいそう厳しくツッコミを入れてくる。
ちょっとのんびり屋のぼくと、そつのないトルコ人との
やり取りはいつまでも見ていたい。
あれこれ不思議なものを手に入れて来ましたが、
このトルコ人はどこからこんなものを仕入れてくるのか?
また、謎のトルコ人は一体なに者なのか?
最後の最後まで読者を惹きつけるストーリーでした。
「ギュレ、ギュレ」
何度か去ってゆくトルコ人に向かってぼくが使う言葉。
魔法のような音感のこの言葉は、
トルコ語で見送る側が言う「さようなら」。
でも、わたしにはこの言葉を唱えれば、
何度もぼくがトルコ人に会えたように、
わたしも再び彼らに会えそうな気がするのだ。
だから「ギュレ、ギュレ」って言いながら、
続編を密かに期待しているのです。