わたしの台所:沢村貞子著のレビューです。
今日も元気に動きまわる沢村さん
沢村貞子さんってどんな人って訊かれたら、
わたしはきっと具体的な言葉ではなく、音で表現したくなると思うのです。
チャッキ、チャキ、チャキ
サッ サッ サッ
シュシュシュシューー
彼女のエッセイを読んでいると、文章のあとにこんな音が聞こえてくる感じなのです。
明治生まれ、江戸っ子とくれば、粋で凛とした格好いい女性を想像するわたしにとって、
まさに沢村さんはそんな素敵な女性の一人でした。
沢村貞子さんが女優であったことは知っていましたが、作品自体あまり拝見したことがない。しかし、黒柳徹子さんや小泉今日子さんなどのエッセイでお名前を何度か見かけていたので、いつかは本を読んでみたいなーと思っていました。
生涯350本もの映画に出演したとのことは、後に知った情報なのですが、女優を生業していた方が、まるで物書きさんのように人の気持ちを惹くキリリとした文章を書かれていることにまず驚かされた。
自分の年齢や立場をわきまえ、決して説教臭くならず、自分の経験を基に若い人へさりげなくアドバイスや知恵を授けている感じがとても自然で厭味がない。
また、人との距離感もベタつかず、クールでありながら人情味もある。
いやはや、本当に見習うべき点が多かったです。
明治生まれの沢村さんを取り囲む生活用品も今よりずっと速いテンポで進化していた時期。
家事はどんどん楽にはなるものの、そこへの戸惑いや抵抗もあったようで、沢村さんは受け入れたり撥ねつけたりしながら、日々の生活を楽しんでいる様子が窺える。
仕事をしながら家庭も充実。なかなか難しいことではあるけれど、なんでも楽しめちゃう感覚みたいなものって必要だなぁ・・・と感じました。
今日も沢村さんはチャッキチャキと家中を動き回る。
サッ サッ サッ
シュシュシュシューー
やがて台所からは美味しい匂いが漂ってくる。