それからはスープのことばかり考えて暮らした:吉田 篤弘著のレビューです。
路面電車と映画館…あの町かな?
本のなかの好青年とでも言おうか。
とにかく読みやすいし、嫌みのない文体になごやかな気持ちにさせられる小説でした。
吉田さんはこういう文章を書く方だったのかぁ・・・とすこし前に読んだ<『罪と罰』を読まない>からはちょっと想像がつきませんでした。
そして、なにより美味しいそうな物が登場する内容だったりするものだから嬉しいじゃありませんか。
さてさて今回はあらすじではなく主人公青年の周りから作品の持つ雰囲気をお伝えできればと思う。
主人公の青年が働くことになったところはサンドイッチ屋。
彼が休みになるとに訪れるのは閑散とした古い映画館。
路面電車の走る町、住んでいるアパートから見える景色は教会の十字架。
青年がかかわる人々は、
サンドイッチ屋のちょっと個性的な親子。
映画館で偶然にもいつも出合うご婦人。
同じアパートの屋根裏に住むマダム。
なんとなくお分かりかと思うのですが、気忙しい展開とか殺伐としたものなどはこの作品にはありません。ただただ日常があり、ただただゆっくりと人々が繋がってゆくような物語なのです。
それから、スープ。
青年が寝てもさめても考えるスープ。
どんな美味しいスープが出来るのか、私たちも一緒に完成を待つことになる。
読み終わるころには不思議なことに「トロワ」という名のサンドイッチ屋も、「月舟シネマ」もどこかに存在しているような気がしてくる。
無意識に自分の中で描いていた町は西早稲田と下高井戸。
路面電車と映画館がもうぴったりと言おうか。
恐らく人それぞれの「あの町」を描きながら読める作品なんじゃないかな。
重い作品や後味の悪い作品のあとに吉田さんの文章に触れてリセット!といった役割を今後、吉田本に託したいと思った次第です。
気持ち良い作品との出合いにスープで乾杯したい気分です♪
uzumaki-guruguru.hatenablog.com