村田エフェンディ滞土録:梨木香歩著のレビューです。
感想:「家守綺譚」の高堂に逢いたくて読んだら、それどころじゃなくなった
じんわり心に沁み入ります。読んだあとも、この本の中に出て来たひとつひとつの情景が次々に浮かんできて止まらなかったです。
すごい作品だと思います。
200ページそこそこの薄い本なのに、大作を読んだ気にさせられました。
舞台は1899年の土耳古(トルコ)の首都スタンブール(イスタンブール)。
トルコの船が難破した時、和歌山県民が彼らを助けたという話は有名で、これがきっかけになってトルコ人は親日的という話はよく聞きますし、現に自分の友人も来日した時、この話を嬉しそうにしていたことを思い出しました。
そんなトルコが日本人をトルコに派遣して考古学を学んでもらおうということになった。派遣されたのは、主人公の村田という青年です。
英国人婦人の経営する下宿先で、ドイツ人、ギリシャ人の研究者や、家政を司るムハンマド、ムハンマドが拾ってきたラテン語を話すちょっと小憎らしい鸚鵡と一緒に過ごしている。
前半はこれらの人々と過ごす様子が淡々と描かれているが、梨木さんならではの不思議な世界も自然に顔を出してくる。
部屋の壁に使われている新石器時代の石から光り浮かび上がる牡牛とか、稲荷神社のキツネの根付とか。楽しいですね~こういうちょっとした話が。
さて、私が期待していた「高堂」はいつ出て来るのか?出て来るまでのドキドキ感も楽しかったです。村田が日本に戻り転がりこんだ場所はあの「家守綺譚」の綿貫の家。
高堂ともちゃっかり自然に再会(ひゃー懐かしいー!←心の叫び)へぇーこういう繋がりだったのかぁ…とひたすら喜んでいたのも束の間。やがて、下宿先だった英国婦人からの手紙を読者も読むことになります。そこには戦争という悲劇、友人たちの消息が綴られています。
あまり感情的になるような内容ではないとばかり思っていたところに一気に自分の中の感情を大きく揺さぶられる後半部分。気づいたら、涙がツーーーっと流れていました。
自分自身のまさかの展開です。最後の最後の1ページまで感情を持っていかれました。
実に巧い!
「からくりからくさ」の時もそうでしたが、この話にもたくさんの大事なことが詰まっていると思うのです。ただ、それを感想として書くのは、やはり難しいと痛感しております。
本書は日本人だけでなく、いつかあらゆる国の人々にも読んでもらいたいなぁー。
新潮社文庫版