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うずまきぐ~るぐる 

*** 新しい本との出合いがきっとある★書評ブログ ****

【レビュー】家霊 :岡本かの子

 

 

家霊 :岡本かの子著のレビューです。

 

岡本かの子の息づかいが漂う雰囲気ある世界へ

 

「かの子撩乱 」で、太郎の三輪車を乗り回していたかの子の印象は私の中でかなり強く残っていて、作品を読むのが怖いような、ちょっと気合いが要りそうだなぁと考えていました。

 

短編が4つ収録されたこの本、280円なんですねぇ。お買い得というのもなんですが、これだけの作品が手ごろな価格で読めるのは幸せですね!

 

 

 

本書は「老妓抄」「鮨」「家霊」「娘」の4編。
どの作品も個性的で、女性のわりに骨太で筋肉もしっかりついた文体といった印象です。

 

・老いた彫金師が夜な夜な一椀のどぜう汁を求め乞う様子。
・ある青年に目をかけ、好きなことをつづけさせようとする老妓の執念。
・手製の鮨を握って食べさせる母親の愛情溢れる姿。

 

ひとつひとつのシーンがまるで写真のひとコマのようにくっきり浮かび上がり、頭の中にそのシーンが残される。この強いインパクトを与える感じが、かの子そのもののように思えてなりません。

 

岡本かの子はきっとグルメだったのでしょう。「食」に対する執着心が強かったからこそ、こんな風に表現出来るのだと思うのです。

 

私がこの中で一番気に入った作品は「鮨」。
登場人物、雰囲気、内容展開、どこを取っても唸るほど良かった。

 

作ることも、食べることも、あまりに巧い表現に、思わずゴクリと喉が鳴ってしまいます。鮨を握っている手の表情などが描かれていたシーンは、確実に自分もそばで見ていた感覚でしたからねぇ。ここに登場する子供と一緒に「すし!すし!」と私も絶叫!(笑)

 

「ギザー:自動湯沸かし器」、「ブルーズ:胴まわりのゆったりした上っ張り」、「ゆもじ:女性の腰巻き」等々、聞き慣れないレトロな言葉も作品にいい感じに混じり、味わいのある雰囲気が漂ってきます。

 

そして、すべての作品から岡本かの子の息づかいが感じられます。
ひょっとしたら、岡本かの子はまだ生きている…そんな生あたたかい温度がじんわり伝わってくる気さえして来る作品でありました。