海に向かう足あと:朽木祥著のレビューです。
感想・あらすじ明日が一転するということは・・・
「こんなことになるなんて思ってもいなかった」
私たちは大きな災害や事件など、昨日を覆されるような出来事に出遭うといつだってこの言葉を口にし、そして、どんなに昨日までが平和で幸せな日々だったのか・・・ということに改めて気づかされる。
今だってそう。
こうして一日の終わりに好きな本のページをめくる時間。
いつでもそこにある好きな本の山。
明日を迎えるために眠ること。
あって当たり前のいつもの時間。
本書はそんな当たり前の日常が、ある日突然プツンと消えてしまうこととはどういうことなのか?ということを、読者も一緒に体験するような一冊でした。
ヨットレースに情熱を注ぐ人々の活力にあふれた風景からはじめはレースの話になるのだとばかり思っていた。
しかし、海の風景も人々の弾んだ声もある日突然様相が一転してしまう。そして、小説を読みながらはたと自分の今ある生活、こんな風に本を読んでいる時間も、もう訪れないことだってあるのではないか?と、何度も自分に問うてみる。
本書は本のなかの人々の状況が、今ある私たちの生活と大きく重なってゆく部分に気づかされ、はっとさせられる。それは思った以上の衝撃を伴う。
ここのところミサイルの発射のニュースを頻繁に耳にする。映像を見て怖いと思っていても、なかなか実感が湧かない。そんな状況下なのになんの疑いもなく明日はやって来ると思っている。
しかし、明日が今日と同じように平和で安全な日とは限らない。
・・・ということを、しっかり伝えてきている小説でした。
本のなかの人々と、一転する世界を是非疑似体験してみるといい。明日という日の捉え方等、個々に感じることはたくさんある内容だと思います。
そして決してこんな光景を未来に見ることがないように・・・。
朽木祥について
広島市生まれ。被爆二世。『かはたれ』(福音館書店)で児童文芸新人賞、日本児童文学者協会新人賞他を受賞してデビュー後、『風の靴』(講談社)で産経児童出版文化賞大賞、『光のうつしえ』(講談社)で小学館児童出版文化賞など数々の賞に輝く。また海外でも高い評価を得て、14年にはミュンヘン国際青年図書館のホワイトレイブンス(国際推薦図書目録)に異例の二点収録。作品はファンタジーからYAまで多岐にわたる。本書は著者初の一般向け小説。(Amazon」より)