森へ行きましょう:川上弘美著のレビューです。
感想・あらすじ きっとどこかで生きているもう一人の「わたし」
自分と全く同じ日に生まれた人に会ったことがありますか?
私は一度だけあって、偶然そのことを知った時はものすごく興奮した記憶があります。
その彼も同じで、まるでひさびさの再会をしたかのようにはしゃぎながら喜びを露わにしていました(笑)
同年同月同日に生まれたということは、あらゆる偶然の中でもなにか運命的なものを感じずにはいられません。もし同じ日に生まれたもうひとりの「わたし」がいるとしたら、一体どんな人生を歩んでいるのか?もしあの時、違う道を選んでいたもうひとりの「わたし」がいるとしたら一体その後はどうなっていただろうか。
本書はまるでまるで2枚の人生ロードマップを交互に眺めているような不思議な気持ちになる、同じ日に生まれた二人の女性の半生を丁寧に追ってゆく。
1966年同じ日に生まれた留津とルツ。母親のお腹から生まれてくるところから話がはじまり、留津とルツの歩いて来た道のりが事細かに交互に語られる。
最初これは一体なんだろう?と言う感じでしたが、留津のことを知ると、もう一人のルツはどうなっているのか気になって来るし、二人の間に存在する共通の人物が登場し何かが繋がっている不思議な空間にいるような気分になったりと、500ページ以上あったにも関わらずあっという間に読了しました。
それぞれの人生については割愛しますが、人にはそれぞれの分岐点があり、居場所や関わる人も変わる。当たり前ののことなんだけど、こういうことの繰り返しを経て、人は成長し変化し続けて行くものだと感じさせられる。
自分もそうだけど昔からちっとも成長していないなーなんて思うことが多々ある。でもこの本を読んでいると、小さな新しい経験を積み重ねることによって考え方やものの見方がちょっとずつちょっとずつ変わって来る。足してみたり引いてみたりしながら大人になっていくものなんだと感じさせられた。それもこれも時を細かく刻んだ小説であったからこそ気づけた部分であります。
もし自分の一生がわかる地図があって辿ることができるなら、この先わたしは何回くらい森の中に迷い込んでしまうことがあるのか?ちょっと覗いてみたくもなりました。
「もう一人のわたし」的な小説はたくさんあったけど、この小説は特に印象深いものになりました。
後半はたくさんのルツが登場して読者を困惑させるニクイ演出も!
どの道を選んでも人生は続く。
「森に迷い込んでしまうこともあるかもしれないけど、もうちょっと一緒に歩いて行こうよ!」と、もしかしたら存在するかもしれないもうひとりの「わたし」にエールを送りたくなりました。
森へ行きましょう文庫版