(小説)よるのふくらみ:窪美澄著のレビューです。
感想・あらすじ 冒頭シーンがどこへ向かったのか?最後はいろんな思いがめぐる
ちょっと怪しげなタイトル。今回はどんな作品なのだろう。窪さんの作品を読むのはこれで4冊目になります。
「あのう私、今、欲情しておるのですが。」
女性が性欲を剥き出しにしているこの冒頭シーンが、その後どこへ向かったのか?
最後に来ていろんな思いがめぐった作品でした。
登場人物たちの心の揺れ動きが、まるでぶらんこのように行ったり来たりしながら迷いに迷い、途中から彼らがどこへ向かうのか?ジワジワと気になってくる。
文房具店の娘、みひろ。酒屋の息子、圭祐と裕太。彼らは同じ商店街で子供のころから一緒に育って来た仲。みひろと圭祐は結婚に向けてすでに同棲をしているのだけど、セックスレスのカップルなのだ。
もともと圭祐の弟・裕太もみひろのことが好きだということもあり、このことが小骨が喉にひっかかっているかのように何年もむず痒い感覚を残し、話が進行してゆく。
情けない感情やら、どうしてそんなことをするのだろう?と、矛盾を感じながらも動いてしまうのが人間の哀しいところ。この3人だけではなく彼らを育てた親たちや、噂好きの商店街の大人たちだって同じようなことをして誰かを傷つけている。
さて、みひろをはじめ圭祐・裕太、それぞれの人生には何が必要で、どこへ向かうのか。最後まで見守ってください。
窪さんの小説は「今ある問題」を、とても具体的にかつ身近な問題として捉えているものが多い。サッと読んでしまえば、よくある話だよね・・・で終わってしまいそうですが、それが逆に自然で良いと思える。
不妊やセックスレスがテーマだと掲げられちゃうと、読み手も構えてしまうけど、窪さんの場合はそれをとても自然に取り入れている。だから読者も至近距離で問題を捉えることができるのです。・・・ということを、毎度感じるんですけどね。
窪さんの小説は全般的に登場人物たちがさらなる幸せをつかむまでの序章にすぎないのだと感じさせられるものが多く、ラストは彼らを応援したくなるような雰囲気が残るのも特長だと思います。
設定は異なっても一貫した流れがあるんだな・・・と今回感じました。これからも「生きること・性」についてグイグイ突き進んだ作品を大いに期待しています。
最後に・・・
蛹から出てくるトンボの姿と、みひろの決断のシーンはとても印象的だった。こういうちょろっと見える「光」とも「希望」とも言えるシーンも見逃せない。
文庫版