総理の夫 :原田マハ著のレビューです。
もし妻が総理大臣になったら…シミュレーションしながら読むのも面白いと思う
男性のみなさま、もし、自分の奥さんがこの国の総理大臣になったら、どんなサポートが必要になると思いますか?実際、どんなことが自分の身に起きると思いますか?「いやいや、あり得ないから」…と、この質問をスルー
しちゃますか?(笑)
でも、あり得ないことが覗けるのが小説の世界の醍醐味。想像だけでも楽しいじゃありませんか。さぁ、総理の夫という立場になってページをめくってみませんか?
本書は総理大臣の妻との生活を、夫の書いた日記形式で描かれた小説です。夫はこの日記をいつか誰かに読まれるということを想定して書いています。なので、読者に向かってたまに語りかけて来るのですが、これが結構「おぉー今、そう思ったとこよ」と、ドキッとするタイミングで来るのが楽しい。
夫・日和 (ひより)は鳥類研究家でおぼっちゃま育ちのおっとりした男性。
妻の凛子にはほぼ一目惚れで結婚し、今でも凛子に夢中。
凛子が総理大臣になると「ファースト・ジェントルマン」として妻を懸命にサポートしようと決意する。しかし、未知の世界には様々な、罠や苦労が待ち構えている。さて、おぼっちゃまの日和、ピンチを切り抜けられるのか?
一方、妻の凛子は、絵に描いたようなしなやかな女性。美人で正義感がみなぎるという、いわば理想的な政治家。国民目線、女性にやさしい政治を目指す。
ただ、本書は女性総理が活躍するシーンに焦点を合わせた感じはなく、どちらかというと、日々忙しく頑張っている妻を、大きな愛で見守る夫という「夫婦愛」を描いた作品なので、政界のドロドロさはさほど感じず爽やかな読み心地で、最後もフィクッションならでは、きれいにまとめられています。
女性が社会にどんどん進出していくわりに、このような小説はあまり見かけない。今後こういう「夫婦関係」も当たり前の時代になるという意味も含め、これはマハさんからの予言的メッセージなのだと思う。そして、働く女性や子育て中の女性へ向けての希望になるようにと。
総理であろうとなかろうと、夫のサポートって大きなことじゃなく、案外些細なことで、癒されたり、幸せ感じられたりするものなのかもね…なんて思いました。そう、日和が淹れてくれるハーブティーみたいにね。
女性総理の登場。こんな日が間もなくやってくるかもしれない。そして、「自分の妻が総理になるなんてあり得ない」と思った貴方も「総理の夫」になる日が来るかもしれないぞ。そんな日のために…。