からくりからくさ:梨木香歩著のレビューです。
蓉子と一緒に昔を振り返りながら…ちょっと不思議な読書体験でした
もうすでにこの本を読んだ方も多いと思いますが、これからの方は是非「りかさん」を読んでからこちらへ進むことをお勧めします。
もちろん、読まなくても充分この作品の素晴らしさを堪能できると思うのですが、やはり登場人物達のこれまでの流れを共に感じて欲しいからです。
私は数週間空けてからこちらを読んだのですが、蓉子が素敵な女性に成長したことをダイレクトに感じ、年月が経ったこと、そして彼女の姿を眩しく感じながらも嬉しさに包まれました。(気分は親戚のおばちゃんです。まぁー大きくなって!って言葉が出てしまいます)この感覚を是非味わってもらう意味でも、流れを知っておいて欲しいなぁーと。
さて、話は蓉子と仲良かったお婆さんが亡くなるところからスタートします。
そのお婆さんの遺した古い家屋で、蓉子を含め4人女性たちが共同生活をはじめます。
糸を染めたり、機を織ったり、庭の草いじりなど、ちょっと古風、そして自然と寄り添った静かな生活。その描写ひとつひとつから、とても心地良い暮らしぶりが感じ取れます。
すごーく羨ましく思えると同時に、丁寧に暮らすとはこういうことかも知れないと学ぶ部分も多かったです。
この4人の女性たち。
穏やかで繊細でトゲトゲしてない気持ちのいい人々ばかりですが、心の中は個々に持つ好きなことへ対する情熱であったり、葛藤であったり…それらが徐々に後半部分でこぼれ始め、その都度、読者も複雑な気持ちになったり、そうだったのか…と頷くシーンが繰り返されます。
そして、この話でもやはり人形の「りかさん」は大きな存在感があります。
やがて彼女たちの過去の血縁関係が絡み合い、そして繋がっていく感じがなんとも不思議な感覚にさせられます。
私の弱点でもあるのですが、その血縁関係が結構複雑で家系図がないとちょっと厳しかったです。(ちなみに不安になり、読後サイトで調べてみたら、色々な方々が家系図を作ってくださっていました。それを見たらよく理解できました)
そういうちょっと複雑な部分はありましたが、最終シーンまで気は抜けません。
なんともビックリするような意外性のあるラストシーン。
見送る命、迎える命。脈々と続く流れ…。
とても静かな話ですが、白いシーツに垂らした1滴のインクが少しずつ広がって、やがて、ひとつひとつの繊維に染み込んで行きしっかりとその色を残す…そんな印象の本でした。
そして、やはり私は蓉子の幼少期を知っているだけに、彼女が思い出す数々の昔の出来事や、お婆さんの言葉や、りかさんと過ごした日々を一緒に懐かしみ、目頭が熱くなることもしばしば。主人公と思い出を共有したという不思議な読書体験でした。
あの大好きだったお友達の登美子ちゃんが登場した時の嬉しさといったら!お婆さんが亡くなってしまったのは残念だけど、蓉子がこんなにも素敵な女性に成長したことが、親戚のおばちゃん?としては何よりも嬉しかったのだよ。
正直、書評を書くにはあまりにも、色々なことがこの作品に詰め込まれているような気がして、なかなか考えがまとまらずにいました。伝えたいことは一杯あったはずなんだけど、言葉にするって難しいなぁ…という感想が出てしまうのも梨木さんの作品の特長かもしれないですね。