一〇〇年前の世界一周 ある青年の撮った日本と世界 :ボリス・マルタン、
ワルデマール・アベグ著のレビューです。
- 作者: ボリス・マルタン,ワルデマール・アベグ,ナショナルジオグラフィック
- 出版社/メーカー: 日経ナショナルジオグラフィック社
- 発売日: 2009/11/26
- メディア: 単行本
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感想・内容 もう見ることが出来ない世界を旅する
旅行記は世の中にたくさんあり過ぎるくらい存在しているが、こんなにもインパクトの強い本は滅多に出会えないものと心から思う。とにかく素晴らしい。
装丁からすると、日本人が書いたものかと思われるが作者はドイツ人。
1905年から1年半にわたって、船でアメリカ、日本、朝鮮、中国、香港、インドネシア、インド、スリランカなどの国を周遊。
この記録は彼が老後にまとめたもので、写真がメインであるけど、当時の各国の人々の様子や特徴、また作者の感じたことなどが率直に書かれていて、読み物としても完成度が高い。
不自由なく裕福な家庭に育ち、やがて公務員になる彼は上司を説得して旅に出ることになる。
大勢の移民の人々と一緒にアメリカへ向かう船の写真が目の前に現れる。
さぁ、世界の旅のはじまりです。
ここからは、正直、私の今居る世界が切り替わってしまったというか、自分の部屋に居ることすら忘れてしまうくらい、この本の中に入りこんでしまったのです。どの国も印象深く、全部ここで書きたいくらいですが2つほどに。
はじめの国はアメリカ。東から西へと大陸を横断して行きます。
一枚一枚めくっているうちに「アメリカ横断ウルトラクイズ」を思い出す。
まさにあんな感じで移動している感じが伝わって来ます。NYやシカゴの都会の風景から昔のマルボロCMの世界、大草原の小さな家を想像させられる古き良きアメリカは今も同様、土地によって様々な顔を見せてくれます。
そしてなんといっても日本。
浮世絵を見ているようで落ち着きます。桜、和室、芸者。作者は日本の文化にかなり興味を持ち、すっかり魅了されている様子がわかります。「そうでしょ、そうでしょ、日本って、日本人っていいでしょ?」と、ちょっと誇らしい気持ちになったりと。
でも、本当にすごいと感じるのはやはり富士山のある風景。
これだけは、他にない美しさがある。見慣れちゃってるからその偉大さを忘れがちだけど、こうして世界規模で見比べてみると時代を問わず、世界のどの場所より美しいと日本人なら誰もが思うことでしょう。
たった1冊で、同時期の世界を一気に見られることってそうそうない。歴史書では「その頃、○○では…」となりますが、その活字が写真になっているわけですから、ファッションや建物ひとつとっても比較がしやすい。
また、現在残っているもの、残念ながら消えてしまったものなども目で確認できる点も素晴らしいです。(火災で全焼したアメリカのクリフハウス・ホテル、自然多きハワイ、万里の長城、ガンジスの沐浴等の今昔を存分に堪能)
そして、異文化に次々と触れて行くことによって、彼の価値観も変化していくあたりも注目どころ。
その後、世界は戦争が起こり、激動の時代を迎える。
正気を失う前の「無垢な世界」を同時に見られるこの1冊。
読後はちょっと微熱が出たような軽い興奮状態が続きました。