東京會舘とわたし(下):辻村深月著のレビューです。
東京會舘は歴史とともに、
たくさんの人々の思い出を引き連れて歩んでいくことだろう
上巻を読んでから結構な時間が経ってからの下巻です。
上巻の余韻がすっかり消えてしまっていたのですが、さっそく一話目からじーんと心に染み入るお話であっという間に東京會舘の雰囲気に包まれました。
下巻は昭和51年からの話になります。
昭和46年、新館への建て替えを終えた東京會舘。
昔の建物からモダンなものへと変身を遂げたわけだが、シャンデリアなど昔使っていたものをそのまま使用するなど心にくいサプライズがあったりする。昔からのお客さんはそんな風景から、当時の思い出が浮かび上がり様々な思いを馳せる。
東京會舘は建物自体にも歴史があり物語がある。
そして、ここで過ごした従業員、お客さんの数だけ物語がある。
どれもこれも今となっては決して忘れれられない愛おしい思い出ばかり。
人々にとって些細なことでもとても大事にしてきた思い出話が、下巻にもたくさん詰まっていました。
特に本書の見どころは、直木賞から見えた東京會舘の話だ。
━━━━「直木賞の時に帰って来ます」
本の帯に書かれたこの言葉から、一体どんなストーリーが生まれたのか大変気になっていたわけだが、これが素晴らしい親子関係、そして東京會舘の従業員の話に仕上がっている。
その他、大スターであった越路吹雪さんの舞台裏の話や、東日本大震災時の東京會舘の様子など、時代を追って現在へと。この先も東京會舘は歴史とともに、たくさんの人々の思い出を引き連れて歩んでいくことだろう。
新新館でも素敵なストーリーがたくさん生まれる場所としていつもまでも根底に流れる部分は変わらずにいて欲しいと強く思いました。