ソナチネ:小池真理子著のレビューです。
◆クラシック音楽が聞こえてきそうな大人の女性の官能
官能というと激しいものを想像しがちだが、小池さんの描く官能の世界は
激しいというよりも、どこかエレガントなムードが漂う。
それはちょっとした視線の絡み合いであったり、
ちょっとした触れ合いから、抑えがきかなくなり
解放されてしまう感じとか。
・・・と書くと、官能全開という雰囲気だが、女性の気持ちの変化などが
実に丁寧に描かれているせいか、厭らしい感じがしないのが小池さんならでは。
なんというか、やはり大人の女性の小説に仕上がっているのです。
ついでに言ってしまうと、タイトルに感化されてちゃったのか、
小説全体にクラシック音楽が流れている感じがするのです。
7編の短編の中で、風変わりだったのは「交感」。
ある女性作家の愛読者である老人が、彼女に手紙を出すことによって
関係が始まります。
二人は徐々に心を開き合い、思いやりある言葉を掛け合う。
一度も顔を合わさず、話は終わってしまうのだが、
たった数か月の文字だけのやり取りなのに、
この二人の濃密な時間がとても印象に残る。
恋文でもなんでもない往復書簡なのかもしれないが、
切ない最後に目頭が熱くなっていた。
どの話も短いわりに濃厚な香りを放っている。
以前は恋愛小説が中心の作風が多かったように思われるが、
ここ最近、そこに「老いること」「死ぬこと」についてが
少しずつ加わり、より一層深みを増して来た小池作品は、
今後ますます楽しみだ。どんどん長編も書いていただきたいと思う。