断髪女中:獅子文六著のレビューです。
感想 短編も面白い。獅子文六!!
久しぶりの女中もの。しかも文六氏の書いたものなら十分楽しめるはず!と、本を開く時はかなりのワクワク感です。
本書は山崎まどかさんが獅子さんの短編を編集したもの。すべてが女中さん関係の小説かと思ったのですが数篇のみ。
ドタバタ劇の印象が強い文六作品。短編はうんとコンパクトにそのドタバタ劇を収めている感じが窺える。
相変わらずの人間模様、そして何といっても当時の文化や生活感が、しっかり無理なく描かれているので、読んでいてとても楽しいのです。
文六作品は、時代がくっきり表れるような内容であるにもかかかわらず、何故だか古さを感じさせない雰囲気がある。自分もその時代にまるで居たかのような感覚で読めてしまうから不思議だ。当時の人々は文六作品をどう読んでいたのでしょうか?とても新しい感覚に触れている感じだったのかな~。
さてさて、たくさんあったので絞り切れないのですが印象的なのは、表題の「断髪女中」。「女中不足」でなかなか女中が見つからないという状況下にやって来たのが断髪の女中さん。この女中さん、ちゃんとお仕事ができるのか?
その他にも「おいらん女中」「見物女中」「竹とマロニエ」と、ぞくぞくと個性的な女中さんが登場。
特に「おいらん女中」は昔お客さんだった人が家庭を持ち、その家に今度は女中として雇ってもらうというなんとも不思議な人間模様を描いた作品。ちょっと得ない設定だなぁと思ったけど、子育ての仕事をしっかりやり遂げた「元おいらん」の人生は心にじんわり来るものあった。
雇う方も、雇われる方も、今では考えられないような人情が育まれ、とても懐の深い良いお話でした。
また、フランスにも行っていたという文六さん。登場人物に西洋人も登場するなど、ちょいちょい「文六色」を漂わせています。
今回、はじめて文六さんの短編を読みましたが、いずれも現代人にも無理なく読める平易な文章なので物語に入り込みやすいです。
獅子文六の本はちょっとしたブームなのか、続々と出版されなかなか追いつけないですが、年に何冊かずつでも読めるといいな~って思っています。