心の力を活かすスピリチュアルケア :ウァルデマール・キッペス著のレビューです。
◆日本ではまだ馴染みがあまりないスピリチュアルケアについて知る本
本が好き!の献本書評です。
人は死に直面した時、どれだけの肉体的・精神的苦痛を味わうのだろうか?
不安、恐怖、孤独、苛立ち、怒り、諦め…想像するだけでも日々、肉体の痛みに耐えるだけでなく精神的にも戦っていかなければならないのだろう。
病院やホスピスなどで医師と看護婦は治療に専念する。もちろん患者の話も聞いてはいるだろうが、医療現場の過酷な労働を耳にすることから、患者の精神的ケアを手厚くする余裕などないことは容易に想像が出来ます。
では、医師でも看護師でもなく、患者の心の奥底にある深い苦しみや悩みをケアしてくれるプロという立場の人は?となると、あまり聞いたことがないというのが現状ではないでしょうか。
スピリチュアル・ケアワーカーというのは、こういった医療現場で心のケアをしていくという頼もしい存在のことを言う。カウンセラーに近い印象ではあるが、クライアントが訪れ密室で行うものとは若干異なる。
このケアは「傾聴」で患者に寄り添い、共感していくといった手法を含めていることから私的にはロジャーズの「来談者中心療法」の基本に沿っているのではないかといった印象であった。
私もここ数年、傾聴のトレーニングのために研修や講座に参加していますが、ただ聴くということは簡単そうであるが、相当訓練しないと出来ないものである。
ましてや「生きたい」「助けて」「死ぬのは怖い」と訴えてきた患者さんに対して傾聴で重視される受容・共感、そして自己の一致などとなると、やはりそれ相応の訓練と経験が必要になってくるであろう。
このスピリチュアル・ケアワーカーは欧米では専門職として病院で活躍されているそうだが日本ではまだボランティアという立場で、限られた病院のみ。
自殺者が年3万人超えだという中で、心のケアに関しての環境がなかなか改善されぬまま時が過ぎていることを実感する。
この本では、心の教育から始まり、丁寧に段階を追って紹介されている。
スピリチュアルケアに関しては後半になるほど解りやすくなっていた。
細かい事例がたくさん載せてはあるだが、個人的にはひとつの事例で時系列を追ったものを見てみたかった。
実際、どのように患者とのラポールを形成して行くのか、ケアすることによって患者がどのように変化したのか等々、全体の流れがあればもっと分かりやすかったと思う。
この本自体、おそらくスピリチュアルケアの入口になる本ということなのでしょう。全体像をつかむにはいいのではないかと思います。
キリスト教哲学が基本ということなので、その宗教観がないと解らない部分もあったが、広い意味で、これからこのような援助は必要であり、今、こうしている時間にも、話を聴いて欲しいと思っている患者さんは全国にたくさん居ることだろう。
肉体的にも精神的にも少しでも苦痛を和らげる方法があるのなら、どんどん導入して、バランスの良い医療を目指して欲しいものです。そして、これらを援助する側の養成もこれからの課題であると思った。
※参考までこの本で書かれていた各役割。
「身体的ケア」は主に医師、看護婦が担当
「心理的(精神的)ケア」は主に精神科医、臨床心理士が担当
「社会的ケア」は主に医療ソーシャルワーカー
「心・霊/スピリット・魂のケア」は主にスピリチュアル・ケアワーカーが行うチームケアが要求されている。