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【感想・あらすじ・レビュー】風は西から:村山由佳

 

 

風は西から:村山由佳著のレビューです。

風は西から

風は西から

 

 

感想・あらすじ 社会人になったら読んでおきたい一冊としてお薦めです。

 

 

 最初から最後まで読むのが辛かった。

村山さんのこれまでの作風からがらりと変わった社会問題を扱った作品。どのページからも悲痛な叫びが聞こえてきそうなほどリアルな息苦しさがあった。

私たちが目にする「労災」関係のニュースは、一定の期間をもって起きては消える。その時は心を痛め憤りも感じるものの時間が経つと忘れてしまう。

しかし、本書を読んでみると、被害者だけでなくその家族や恋人などが辿る道はそんな一瞬のニュースで終わる扱いであってはならないほどその裏では長くて険しい道のりを歩いている。

本当に長い時間をかけて、悩み、苦しみ、考えて、そして自分で調査したりと、一人の命の尊厳を守るために身も心もすり減らして戦っていることが解る。そして、本当にどうしょうもなく酷い企業が存在していることも。

本書に登場する大企業のカリスマ性を武器にしたトップは会社の否を断固として認めない非道極まりない男。おまけに周囲の人間はこのカリスマ社長に誰一人として、それは無理です、不可能ですとは言い出せない。こういったトップの勘違い経営が真面目な若者の大切な命を奪ってしまうのだ。

作中の弁護士の言葉が印象的だ。

小さい会社を大きくしてゆく時に必要な努力と、すでに大きくなった会社を健全に維持してゆくための努力とでは、質が全然違うんですよ。周囲から求められることも違えば、トップとしての役割も変わってくる。若い頃の自分の感覚で、行け行けどんどんのまま「俺についてくれば間違いはない」式のお題目を唱えてばかりでは、大企業の経営は成り立たない。

 

  

 


以前、産業カウンセラーの資格修得のため、労働者のメンタルヘルス等に関しての勉強していた時期がありました。様々な事例をもとに話し合ったり、実習生同士で傾聴を軸にカウンセリングしたりするもこれがなかなか掴みどころない世界で非常に難しいものでした。知識は詰め込めばなんとかなるのだけれどもカウンセリングは容易ではない。

あの時雲を掴むような世界に感じていたのは、カウンセリング経験がなかったということはもちろん、当時ブラック企業が今ほど取り上げられることもなかったこともあり、私自身その実態を知らな過ぎたのだと思う。こういう問題は身をもって経験しないとなかなかその辛さが見えにくい複雑さがある。

本書を読んでいると被害者がどんなことを強いられ、どういう状態から心が病んで行ったのかが手に取るように解かる。そして、その人を見守る周りの人々の心境も痛いほど理解ができる。

 

 

 


誰かに相談する時間もないほど我を忘れ忙殺されている被害者。でも、そんな時こそプロの力を借りることも大切だと感じます。相談窓口を含め色々な選択肢があることを社会人になったら知っておくことも必要だ。

また被害者遺族のやり場のない憤りの行方は・・・大きな企業を相手にどのようにして戦っていくのか。心に大きな傷を受け、悲しみに暮れている中で今まで経験したことがない問題を抱え、どこにどう働きかけ動いて行くのか、右も左も分からないところから出発することは計り知れないほどの心労を伴う。そして労災認定を受けるまでの時間の長さ、その後の調停を含めた難題など、現実的な厳しさが伝わってきます。

あの時どうすればよかったのだろうか?

そんな取り返しのつかないやり切れない言葉を世の中からなくすためにも、このような一冊を読むことはとても意味があると思う。

社会人になった方は、自分を含め周りの人がこんな状況に陥っていないか、予兆や行動を頭の片隅に入れておくだけでも違うと思うのだ。

社会人になったら読んでおきたい一冊としてお薦めです。

 

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